新鮮なトマトジュースをお出し!.

――ったく、もうちょっとおしとやかだったら可愛いのに。あれは詐欺だろ、いや。絶対詐欺だ。見た目は可愛いのに乱暴だし、言葉遣いなんかまるで女王様だ。ついでに彼女が王女様なのは本当らしいが、なんか俺が思ってるイメージとは全然かけ離れてるつっーか、あれはギャップありすぎるだろ!?


 陽介はチラッと盗み見しながら遠目から彼女を観察した。


――こう、俺が思っているイメージの王女様は……。


 その瞬間、彼の頭の中では彼女がメルヘンの世界で可愛い動物達に囲まれながら、森に囲まれた花畑で可憐に花を摘んでいるイメージだった。ついでにおしとやかで、いかにも健気で可愛い感じのお姫様に仕上がっていた。そして、チャーミングに自分に向かってニコっと微笑んでいだ。


「……良い! 何だよ可愛いじゃんか、黒薔薇姫~ヘヘヘッ!」


 陽介は彼女を見ながら勝手な妄想を頭の中で膨らませた。そして、下品な笑を浮かべてニヤついた。その様子を黙って見ていた黒薔薇姫は、憂鬱なため息をついて呆れ返った。


「――まっまく、使えない下僕2号ね。何みっともない顔でボーッと突っ立てるのかしら? あの子、頭とか大丈夫かしら?」


 彼女が陽介の名前を呼ぶと、彼はハッと我に返った。


「ちょっと、いつまで待たせる気。早く持ってきなさいよ?」


「ああ、ごめんごめん……! はい、お待たせ……!」


 陽介はトマトジュースが入ったコップをテーブルの上にトンと置いた。彼女は目の前に置かれたコップを見て、ひと言文句を言った。


「まっまく礼儀作法がなってないわね、それでも私の下僕2号なの? もうちょっと下僕らしく、礼儀正しくコップをテーブルにおきなさいよ」


「へいへい。今度から気を付けますよ~」


「まあ、なんてふてぶてしい態度かしら?」


『お前に言われたくないわーっ!!』


 陽介は彼女に負けずに言い返した。すると、再び目の前を大鎌が霞めた。


「次は頭が飛ぶわよ?」


「……す、すみませんでした!」


 彼女がキッと睨んで言ってくると、陽介は急に黙り込んで部屋の隅に避難した。


「さすがわかってるじゃない。私に口答えは、マヌケな死を招くだけよ?」


「……はっ、はい!」


 陽介は彼女の機嫌を損ねないように返事をすると、鼻水を垂らして下を俯いた。


「――さてと、そろそろ頂こうかしら? もう空腹でとにかく憂鬱だわ。まっ、人間の貴方にはヴァンパイアの空腹がどんなに憂鬱かはわからないでしょうけど……」


「え、黒薔薇姫…――?」


 陽介は何気無い言葉に反応すると頭を上にあげた。彼女は儚げな瞳でため息をついた。そのため息が、何故か彼には切なく感じた。


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