彼女と日常の変化

――彼女と別れて直ぐに猛ダッシュで家に帰った。そしたら案の定、黒薔薇姫が不機嫌な表情で玄関を開けて直ぐに目の前で膨れっ面を見せて佇んでいた。彼女はほっぺたを膨らませて、お怒りの様子で俺に当たってきた。


「遅い! 今何時だと思っているのよ、下僕の癖に私にお腹空かせる気!?」


「ごっ、ごめん。なかなか仕事が終わらなくてさ……!」


「ふーん。そーなの」


「なっ、何だよ……!?」


 彼女はいきなり、怪しんだ目で見てくると、ジロジロと疑うように見てきた。


「別に。まぁ、良いけど。それより早く、食事の支度をしなさい。下僕の癖に私をいつまでも待たせるんじゃないわよ!」


「へいへーい。言われなくても今作りますよーだ」


「まぁ、可愛げないわね」


「お前がもう少し素直に言えば、俺も喜んで作ってやるのになぁ?」


 言われて渋渋、台所の前に立つとエプロンを巻いた。そして、彼女の顔を覗くように悪戯に笑いかけながら話した。すると黒薔薇姫の大鎌が目の前をスリ抜けて飛んできた。


「あっぶねぇっ!! いきなり何するんだ!?」


「チッ、命拾いしたわね」


「何をっ!」


「下僕の分際で私にイチイチ文句を言う何て、2000千年と6ヶ月と3日早いのよ。誰が素直じゃないですって? 言ってくれるじゃないの。所詮は歩く自動販売機の癖にして生意気だわ」


 黒薔薇姫は目の前でツンとした顔で『フン』と言った。糞味噌に言われると、俺は思わず口に出した。


「だっ、誰が歩く自動販売機だ! あーあ小泉先輩の方が全然可愛いよなぁ。黒薔薇姫とは大違いだ」


「小泉?」 


「あっ……!」


 思わず名前を口に出すと焦った。別にやましい訳でも無いのに、何故か一瞬、焦った自分が居た。


「誰よ、小泉って?」


「ん? ああ、バイト先の先輩だよ」


「そう…――」


「夕飯はチャーハンでいいか?」


 その瞬間、殺意を込めた瞳でギロッと睨まれた。


 あっ、ヤバッ! コイツ可愛い顔して、睨むとめちゃくちゃこぇ〜ッ!


「……すみません、今すぐトマトジュースをお作り致します。お姫様」


「よろしい。さあ、早く作りなさい坊や」


「ぼっ、坊や……。俺か?」


「あんた以外に誰が居るって言うのよ、早くおし!」


『ひえぇぇ〜〜っ!!』


 彼女が思いっきり鎌を振り回すと、壁にドカッと突き刺さった。危うく首が飛ぶ所だった。これ以上彼女の機嫌を損ねないように、超マッハでトマトジュースを作った。それを急いで彼女が座っているテーブルの上にソッと置くと、敬語でお辞儀してみせた。まるで自分が彼女の執事になったような気分だった。


「黒薔薇姫お嬢様、極上のトマトジュースをお作り致しました。さぁ、召し上がれ」


「よろしい。それでこそ私の下僕2号だわ」


 彼女は上機嫌になると、グラスに入っているトマトジュースを一口飲んだ。







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