彼女と日常の変化
仕事中に彼女のことをぼんやりと考えていたら店長に怒られた。俺は慌てて仕事に戻ると、レジカウンターに入って買い物客をレジで接客した。夜の8時頃、コンビニの中は人が疎らだった。店の中で繰り返し、同じBGMの宣伝と曲が流れた。今日は買い物客が少ない。この時間帯の省なのか、少し暇さえ感じた。店長は相変わらず、仕事中に裏でタバコを吸っていた。スタッフルームは、店長が吸ったタバコの嫌な臭いが充満していた。俺はなるべくスタッフルームには入らず、店内で品出しの作業をしていた。
「――ねぇ、日野君。私も一緒に手伝よ?」
「こっ、小泉先輩……!?」
俺の隣に小泉先輩が並んだ。彼女の長い髪の毛が、不意に俺の鼻差先に触れた。甘くて穂のかに匂う良い香り。とても女の子らしい香りだ。小泉先輩は、俺よりも2つ歳上で美人で可愛いらしい女性だった。そして、頭がよくて性格も明るかった。そんな彼女は誰にも好かれるタイプだった。それに仕事もテキパキとこなして、男の俺でさえも憧れてしまうような、そんな魅力溢れる彼女だった。長い髪の毛が僅かに触れると、俺は胸がドキッとして意識した。彼女は耳に長い髪をかきあげると、俺の方を見て謝ってきた。
「あっ……! ごめんなさいね、日野君。顔に髪の毛が掛かっちゃって……!」
「いえ、全然大丈夫です……!」
「そう?」
俺は彼女の隣で目線を反らして、品出し作業を続けた。小泉先輩が俺に声を掛けてくれるなんて今日はラッキーだなと、心の中で呟いた。なんたって彼女はバイトの仲間の間では人気者で、店長でさえ彼女にはなかなか口出しできず、デレデレしていた。ついでに男スタッフの間では、彼女はマドンナ的存在で、みんな彼女に気に入られようと色々な手でアプローチしていた。俺も密かに彼女のことを想っていた。なんたって彼女は美人で可愛いかったから、同じ職場で働いて意識せずにはいられなかった。そんな彼女が俺と一緒に並んで作業をしている。これはまさに絶好のチャンスだった。
――と、前の俺だったら心の中でガッツポーズくらいしていたのだが、不意に黒薔薇姫のことが脳裏に過ると、素直に喜べなかった。だから俺は、ニヤケそうになる顔を必死で堪えて黙々と作業をした。小泉先輩は相変わらず、テキパキと仕事をこなしていた。品出しが終わると、彼女は今度は陳列棚の整理を始めた。器用な出先でお弁当や、おにぎを綺麗に並べると、急に話しかけてきた。
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