彼女と日常の変化
「そういえば日野君、最近だけど何かあったの?」
「えっ……!?」
「だってホラ、最近なんだからボンヤリしてるし。今日だって店長の川崎さんに怒られてたじゃない。だから何となくだけどね?」
「そっ、そうですか……?」
「うん!」
突然、彼女にそんな事を聞かれると内心はドキッとした。だけど、さすがに誰にも話せない話しなので慌てて話をはぐらかした。
「そっ、そんな事ないですよ……!? いつも通りです!」
「そうなんだ。ふーん。私の勘違いかな?」
「かっ、からかわないで下さいよ……!」
「わかった! 彼女と喧嘩とかしたとか?」
「かっ、彼女なんて居ませんよ…――!」
思わず剥きになって言い返すと、彼女はキョトンとした顔でこっちをジッと見てきた。
「あっ、そうなんだ……! ゴメンね、変な事聞いちゃって。てっきり日野君って彼女居るのかと思った!」
「えっ……?」
「だって最近、仕事終わったら帰るの早いし。彼女居るのかと思ったんだよね?」
「そっ、そうですか……!?」
一瞬、そこ言葉にドキッとした。確かに最近、仕事終わったら直ぐに真っ直ぐ帰ってる。寄り道もせずに帰るなんて前の俺じゃ、考えれなかった。確かに家には黒薔薇姫が居る。別に俺の彼女でもないけど、部屋の中で一人でポツンと居る彼女が何だか可哀想な気がするし、早く帰らないと怒られる気もして、本能的に真っ直ぐ帰ってるような気もするけど。小泉先輩にその事を言われて、俺はそのことに気づかされた。俺にとって黒薔薇姫は一体……?
「――で、日野君はこのあと暇?」
「はい?」
「またボーッとしてたよ? 私の話し聞いてた?」
「あっ、ごめんなさい。ちょっとボンヤリしてました……」
俺とした事が一瞬、他の事を考えて。彼女の話を聞き逃した。せっかく彼女が俺に話しかけてくれたのに何やってるんだ俺はと、一人ツッコミをしながら冷や汗をかいた。
「もー! また他の事考えてたでしょ? 日野君、私と一緒に帰ろうよって話し聞いてた?」
「えっ!?」
「ダメだった? 今日は時間あるし、一緒に帰る途中で近くのお店で夕御飯食べない?」
突然、彼女から一緒に帰ろうと誘われると一瞬ドキッとした。そして、これは夢なんかじゃないかと思って、自分のほっぺたをツネってみた。
「イッテ…!」
「何してるの日野君? 自分のほっぺたなんかツネっちゃって?」
「いや、まさか小泉先輩から一緒に帰ろうなんて、珍しいなと思って……!」
そう言って話すと、彼女は目の前でクスクスと可笑しそうに笑った。
「わっ、笑わないで下さいよ……!」
「ゴメンゴメン、だって可笑しくって! まさか夢だと思ったの?」
「えっ?? じゃあ、ほんとですか?」
「うん! 今日は夕飯、私が奢ってあげるから一緒に帰ろうよ!」
彼女は目の前で明るく笑うと自然に俺の腕に触れてきた。彼女の手が右腕に触れた途端に心臓の鼓動が早くなった。これはマジ夢じゃないのかと疑ってしまうような、そんな奇跡みたいな状況に呑まれた。
「おっ、俺なんかといいんですか…――? そっ、それに小泉先輩からタダで奢って貰うなんて俺にはできませんよ……!」
「いいっていいって、私に奢らせてよ! それに日野君、学生さんだし。色々と苦労してるんだから、私の事は大丈夫だから好きなの食べていいからね!」
彼女はそう言って明るく笑った。心から彼女の優しさを感じると、俺は申し訳無さそうな気持ちになりながらも彼女の誘いを受けた。
「ありがとうございます……! それじゃあ、遠慮なく奢らせてもらいます!」
頭をかきながら恥ずかしそうに下を向いて返事をすると、彼女と一緒に帰る事にした。
「よし、じゃあ! あと少しで仕事終わるから、終わったら一緒に帰ろうね!」
彼女はそう言って言い残すと、弾むような足取りで仕事に戻って行った。俺は彼女の優しさに胸中が温かくなった。
――やっぱりいいな、小泉先輩。俺なんかに優しくしてくれるなんて。俺に兄弟はいないけど、もし自分に姉とか居たら、きっとこんな感じなんだろうな。
不意に染々と思いにふけると、自分に兄弟がいたら良いのになと、そんな事を思いながら仕事の続きをはじめた。そして、あっという間に時計の針が過ぎた頃、ようやく仕事も終わって、俺は彼女と一緒に帰る事になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます