新鮮なトマトジュースをお出し!・

「下僕2号の割りにはなかなか役に立つじゃない。これはそのお礼よ、次はもう少し早くトマトを買ってくることね。私こう見えて待たされるのが嫌いなの、わかったわね――?」


 彼女は女王様のような口調で、小悪魔に笑って見せた。陽介は顔を真っ赤にさせながら素直に返事をした。


「おっ、おう……!」


「よろしい。では、行っていいわよ。早く行かないと遅刻するんでしょ?」


「あっ……!? そう言えばバイトだった……!」


 彼はハッと我に返ると、急いで玄関の扉を開けて外に出た。


「黒薔薇姫……!」


「なぁに? そんなに大きな声を出して?」


「いっ、行って来ますのチューは!?」


「――まぁ、陽介ったら……」


 その言葉に彼女は笑顔で笑うと、次の瞬間に大鎌は振りかざして玄関の扉にザクッと食い込ませた。目の前をスパッと大鎌が過ると、陽介はビックリした声を出して地面に尻餅をついて倒れた。


「調子に乗ってるんじゃないわよ! さっさと行きなさい、このお馬鹿さん! でないとお仕置するわよ!?」


「ヒイィィィ! 調子に乗ってすみませんでした~っ!」


 彼女が恐い顔で睨みつけると、陽介は慌てて立ち上がって退散した。そして、2階から階段をかけ降りて自分の自転車に股がると逃げるようにアパートを出て行って仕事に向かったのだった。


「――まったく、疲れるわね。ちょっと人が甘い顔すれば調子に乗って、これだから単純な男は嫌いなのよ。はぁ……。何だかこの先、凄く憂鬱だわ」


 黒薔薇姫は空を見上げると、ふと憂鬱なため息をついたのだった。そんな彼女の気持ちを知るよしもない彼は、単純に頭の中は浮かれていた。そして、可愛い女の子との同居生活を脳内では同棲生活に変換して、一人イケない妄想を膨らませた。そんな彼は自転車をこぎながら坂道でガッツポーズをしたのだった――。





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