第11話
その日の夜は何も起こらなかった。3人で寝ずの番を交代でやるということで、一人が見回り、一人が護衛、そして一人が休憩という形でデミトラを護衛していたが、クロウが拍子抜けしてしまうくらいに何も起こることはなかった。
既に使用人たちはいない、門番まで帰したのはやりすぎな気もしたが、指が不自由と言っていたアーガムでは犠牲になってしまうかもしれない、そう考えるとデミトラの帰す判断は正解かもしれないとクロウは思った。
いまもしこの敷地で何か動くものがあれば、それが敵以外の何者でもないという図式は、分かりやすく扱いやすかった。
だがクロウの警戒はむなしくも空振りに終わった、神経を過敏にさせながら死角を見て行ったりしたが、何の成果も得られなかった。見えない場所に何かが潜んでいるのではないかという思い込みが、そのたびに頭の片隅に出てくるものだから、クロウはそのたびにこわばっていき、無駄に体力を消費させていった。
クロウは自分で考えていた以上に疲れていた、ほんの3時間の巡回でも、神経をすり減らすには十分な時間だということは、やって初めて知ったことだった。
1巡が過ぎるころには空も白け始めていた。ニールの見立てでは明るい屋敷を襲撃することはないだろうということだった、暗い夜の闇に身を隠し、襲って来るのが彼らのやり口だとニールは体験談を語っているかのように見えたが、それは実際あった話なのだろう、そう思わせるだけの説得力もあった。
日が昇っているうちは比較的安全だろうという話だったので、遠くに日の光が見えると、クロウの張り詰めていた神経は一気に弾け、麻痺していた感覚は正常に戻り、疲労という名の駄賃を残した。
言われるがままに少しだけ仮眠を取った、頭がすっきりしていたクロウは、昨日ニールとルトラに話をした内容を思い起こしていた。それもあってか、長い時間寝ていることはできなかった。
「一つ、考えがあるんだ、もしかしたら空振りに終わるかもしれないし、だけどもしかしたら現状を大きく変えることができるかもしれない」
「うだうだ言ってんじゃねえ、はっきり本題に入れ」
「わかった、もしかしたら、あの子はまた来るかもしれないって思ってるんだ」
クロウには一つの予感があった、たくさんの小さな可能性を無理やりに結び付けたような、ほんの僅かな可能性だったがそれを捨て切ることができなく、ニールやルトラに話をし始めた。
「あの子って言うと、お前らが会ったっていう、得体の知れねえ女の事か」
「……なんでてめえはそう思ったんだ」
意外とニールは話を聞いてくれるようだった、現状ではデミトラの周りで怪しい人間と言えば、この少女以外の情報が何も見つからないのもその理由なのかもしれない、ニールも手探りで情報を集めているかのように見えた。
「あの子は明後日って言ってた、なんで明日じゃないのだろうかって」
クロウの中にずっと引っかかっていた言葉でもある、どうして今日ではだめなのか、どうして明日ではだめなのか。
「んなもん攪乱するためかもしれねえだろ、何でもかんでも信じるんじゃねえ」
「そうかもしれない、だけどこうも考えられる、もし相手を疲弊させるつもりで嘘をつくなら、一日でも多く疲れさせる今日って嘘を言えばいい、もし嘘だとしても向こうには何の損もないんだ」
それまで噛みつくように反論していたニールが、その時黙り込んだ。
「明後日と言った理由を考えたら、彼女が失敗した可能性も考えられるんだ、もしかしたら本当は教えちゃダメな情報だったんじゃないかって」
「じゃあなんで明後日なのクロウ君、あの子はなんで今日や明日じゃダメだったのかな」
「一つはもともと決められた日だったからってこと、だとすると上に人間がいることになるけど、そこは今回は触れない、なんかとてつもなくでかい存在を感じるし。そしてここは推測なんだけど、不安もあったんじゃないかな」
「不安ぅ、殺し屋がか」
「話しかけられてこっちを見てたけど、あの子は俺たちの事を全く知らなかった。だから屋敷の関係者かどうかを聞いてきたし、違うとわかると警告までしてきた、その日に行くので気を付けてくださいって言ってるように感じたんだ」
「そりゃ人が多いと面倒なことになるってだけの話だろがよお、なんか都合よく考えすぎてんじゃねえのかおまえ」
睨み付けるニールの気持ちもわかる、クロウ自身本当に細い可能性を手繰り寄せようとしている実感があったからだった。
「考えてみてくれ、本当に凄腕の殺し屋なら、皆殺しにしてしまえばいいだけなんじゃないのかと。あの時周りには誰もいなかった、目撃者がいないんだったら消せばよかったんじゃないのかと。むしろ怪しい人間がいたって情報を持ち帰らせてる時点で、あの子はまだ何にも染まってないようにさえ見えた、ひょっとしたら殺しをしたこともないんじゃないかとも」
「言われてみれば、むしろお前の方が殺し屋みたいな考え方してんな」
クロウの頭の隅に残っていたのは、ルトラが見たという少女の体の周りを覆っていた半透明の色の事だった。それまでの人生もその色に影響を及ぼしているという話だった。クロウの中で、ひょっとすると半透明は、何にも染まらない人間ではないかという可能性が浮かんでいた。
「ねえルトラ、人を殺したことのある人の色って、見たことあるかな、大事な話だから教えてくれないか」
もし殺し屋なら、明らかに人とは違う特徴が表れるはずだという確信をもって、クロウはルトラにそう聞いてみた。イルシヲの形態からそういった人間と邂逅している可能性もあると考えた。一瞬の逡巡のあとルトラは口を開いた。
「赤と黒が混じったような色をしてる、血と人の心の闇が混じったような、重々しくてどす黒い、人間の憎悪を背負ったような、自然界では見たことがない色だから見たらすぐにわかる」
「あの子の色はどうだった」
「確かに見たことはなかったけど、半透明だったけど、でも」
ルトラの言いたいことがクロウにはわかった、でもそれは賭けでしかない。ひょっとすると何らかの方法で隠れているのかもしれない、ひょっとするとその子特有のもので中身は全くの別物かもしれない。だけどそんな可能性を排除していくと、一つだけ浮かぶものがある、それが無垢という可能性だった。
クロウはその危険性も理解したうえでこの提案をしていた。ひょっとすると分の悪い賭けかもしれないとも思っているくらいだった。
「可能性があるならやってみたいんだ」
心の奥底から出た、本音だった。
「いままでの話を聞いてある程度は分かった、でもなんでてめえなんだ」
ニールはクロウが思っていた以上によく聞いてくれる、その理由をちゃんと説明すると納得もしてくれていた。もちろんクロウも理由なく自分一人で行くといったわけではない。
「相手が幼い女の子だから、もし年齢そのままの女の子だったら、複数人でぞろぞろ行けば警戒されるしその場で逃げ出す可能性だってあるからってのが一つ。少なくとも逃げられたら追いかける自信はこれっぽちもない、相手が一人とも限らないから深追いも迂闊にはできない」
幼い子供だったら、警戒心が強いかもしれないという事。逃げに徹さっれてしまうと、目の前で逃げられてしまったクロウ達では追いかけることは到底出来ないと考えていた。
「会話をすることはできたから、もしまた話をするなら自分が行くのが適任だということ。見知った顔として話しかけやすいし、全く顔も会わせていないニールだとすぐに逃げるか、もしくは目の前に現れてさえくれないかもしれない」
一言二言でも会話を交わし、相手はクロウの顔を見て、クロウも相手の顔を見た、だからでこそ偶然を装って会話をするならば、ほんの僅かでも知り合いである自分がいくのが最適だという事が二つ。
「それに相手には、デミトラ氏がだれか人を雇っているのだという情報はもう伝わっている、イルシヲに入ってすぐの、まったく情報が出回っていない自分なら、万が一を考えてもばれる心配はない。欺くことができるのも自分だけかもしれない」
三つ目は用心に越したことはないとう、ありえない可能性だった。もし素性が相手にばれているのだとすれば、それは騎士団以上の組織を想定しなければいけない、もしそうだったらまったくもって歯が立たない、クロウたちだけでは絶対に守り切れない。だからでこそ捨てた可能性でもある。
「それに何より、あの子はなんか不安そうに見えたんだ」
「なんでそんな風に見えたんだ」
「もし仕事を沢山こなしているような熟練者だったら話しかけられても相手にしないだろうし、そもそも人の目を気にして出会う事さえなかったかもしれない。だけどあの子は俺たちから情報を得ようとしていた、もしかしたら屋敷の関係者かもしれないという可能性だってあるのにだ。だからもしかすると不安になってまた情報を集めに来るんじゃないのかって思ったんだ」
「んな都合のいいことがあるかよ」
それはクロウ自身も賭けに近いものだと思っている、いたら儲けもの、いなければ残念程度の考えだった。
「つまりなんだ、てめえはそいつが人を殺したこともない、初仕事なんじゃねえかとでも思ったってことでいいのか」
クロウが言いたかったのはそれだった。まだ誰も殺しをしたことがない、自分と同じ新米のようなものなのではないかということを。
もしそうだとすれば、クロウの方が有利だと思っていた。クロウが少女と違うところがあるとすれば、クロウには学校で学んだ経験があったことだった。当然肉体的な訓練もしていたし、護衛をする場合の勉強と言ったものも学校ではやっていた。だからでこそクロウには知識があり、その不安をある程度払拭することができていた。
だがあの時見た少女は本当に幼そうだった。歳のほどが12に見えると、そして場数を踏んでいるとも思えなかった。だから現場を確認しに来たのではないのだろうかと。もし少女が初めての仕事だったと仮定すれば、それまでの不自然さが全て繋がる。
「まあ、一理はあるかもしれねえ」
「ちょ、ちょっとなにいってんの」
「やりたきゃ勝手にやれ、だがそれで何かあったら、てめえが責任を取れ」
「もう、ほんと勝手なんだから」
クロウも二人には迷惑をかけないつもりだった、もとより一人でやると決めたことだけに、援助を期待してはいけないと思っていた。すべては思い付きで、確実性も当然のようにないのだから。
黙り込んでいたことを肯定ととらえたのか、ニールは一人で納得していた。そんなニールを信じられないといった目で見ているルトラも、だけどその説明で説得されかかっているのかあと一押しのように見えた。
「俺に任せてよ」
クロウは自分で言った台詞を言ってからよく考えた、この言葉を、ここに来る前に言ったことがあっただろうかと。
「で、でも、だからって一人じゃ危険すぎるよ」
その場にいたルトラだからでこそ、不安を払拭しきることが出来ないようだった、クロウ自身も不安でいっぱいだったが、全く勝算が無いというわけでもない。
「諦めたくないんだ、出来ることがあるなら何でもやりたい」
ルトラはクロウを見て、いくつもの逡巡をかさね、そしていつしか頷いていた。クロウは全く勝ち目がないとは考えていなかった。ルトラはそんなクロウの身体を眺めながら、説得することを諦めた。
「分かった、そこまで言うんだったら分かった。でも危ないって思ったらすぐにでも人を呼んで。すぐに駆けつけられるように準備しておくから」
クロウは二人の説得に成功した。
屋敷の外に出た、その日もあいにく靄が出ていて、辺りに人の気配はなかった。まだ人も寝静まっているくらいの朝の街、クロウは屋敷の外周をまた歩き始めた。
つい前日は目に見える壁を調べていたが、今回はもっと注意深く観察をしなければいけなかった、まず見つけるということが難しいのだから。
クロウは一つだけニールとルトラに話をしていなかったことがある、それは目視が難しいということだった。
ルトラの話を聞けば聞くほど、彼女は人を覆っている色で相手を見ているという話だった、つまりルトラは少女そのものを見ているわけではなかったからすぐに発見できたのだ。
だけどクロウは言われて注視して初めてその存在を確認した、何かしらの特殊な能力が働いていることはわかったが、それが魔法ではないということしかクロウにはわかってもいない。
仮眠を取ったとはいえ、少し気怠さの残った身体で、だけど集中して壁際を観察していた。靄はそれなりに濃く、遠目に壁を観察することはできなくなっていた。それがクロウにとっては好都合で、もし少女が遠くから観察していたのだとすれば、なすすべがなかったからだった。
自然がクロウに味方しているとわかるとクロウはどんどん自信をつけた、きっとうまくやれると。
そして少女はそこにいた。やはりというか、ぼんやりと浮かぶ幻影のような状態だったが、今回はすぐに見つけることができた『ここにいるはず』という強い意志があったからだった。
「こんにちは」
声をかけられた少女は、すぐに振り向いてクロウの方を見た。今度は迷うことなくすぐに目が合う。そしてその像が結ばれたかのように、はっきりと実体を持っていた。
「あれ、お兄さん昨日の」
「うん、そうだよ、そういや自己紹介してなかったね、クロウって言うんだ、きみは」
「ごめんなさい、お母さんに知らない人には教えるなって言われてるの」
「ううん、いいよ、気にしないで」
お母さんとは誰だろうか、肉親だろうか、それとも組織の上の人間をそう呼んでいるのだろうか、だけど言っていることは何もおかしなことではない、その背後に何がいるのか知らなければ、何も不穏な言葉ではない。
「今日は寒いね」
「ふふ、でもいい朝だと思わない、誰も人がいないし」
意外と良く喋る子だったのはクロウの考えていなかったことで、その姿は、やはり年相応のものに見えてしまう。ルトラの天才能が無ければ、誰もが騙されてしまう純朴さが見えていた。少女はすぐにどこかへ行こうというつもりはないらしく、それどころか会話をしようという意思さえ見えてくる。クロウはこの機会を逃せないと思った。
「僕は散歩してるんだけど、君は何をしていたんだい」
「あたしも散歩、朝の街って好きなんだ、花の香りが強くなるし、人が誰もいなくて静かだし、誰からも縛られないそんないまの時間が楽しいの」
縛られない、ちらっと出てきたその言葉だけが、少女の年齢にそぐわない言葉だっただけに、クロウはそこに本音を感じ取っていた。途中までは楽しそうに語っていたのに、その時だけクロウにも背筋に冷たいものを感じ、誰かに見られているかのような気配を感じ後ろを振り向いたが、靄の先は何も見えず、一瞬感じた怖気もいつの間にか消え失せていた。
「どうしたの」
「い、いや、なんでもないよ」
本能が少女に関わるなとでも言っているのだろうか、何もないだろう靄の先は、やはり何も見えなかった。
「寝起きだからかな、少し目がかすんで見えるよ」
欠伸をしながら、気取られないように、目を擦りながら少女の方を見ていた。小さい子供を騙すようでクロウは少し心が痛かった。
「あ、それは違うよ」
「違うって」
その原因について教えてくれるのかと思ったクロウは一瞬だけ素が出てしまった。
「寝起きだからじゃないの、それについては説明できないんだけど、とにかく大丈夫だよ」
そして当然のように教えてもらえないことに、クロウは落胆していた。そんな簡単な話ではなかった、だけど一つだけ確実にわかったことがある、原因が分かるということは、この現象が少女の何かのせいであるという事だった。天才能の可能性が強くなっていった。
「お兄さんはいつまでこのおうちにいるの」
「うん、あと少しかな、そしたらまた自分たちの職場に戻っていくよ」
「そっか、だけど明日は外に出てるといいかな」
「外にって、出かけたほうがいいってこと」
「うん、そしたらなにもなく、一日がまた続くから」
クロウの疑問が確信に変わろうとしていた、まるで目の前の少女はクロウが巻き込まれないようにしているようにしか見えなかった。だけどそれはあまりに都合が良すぎて、クロウ自身その考えを捨てなければと考えているほどだった。
「ねえ、君は何をしようとしているんだい」
クロウは直接訪ねていた、そもそも相手から情報を聞き出すといった方法をクロウは知らない、ここまで教えてくれる少女の無垢さに、クロウは騙されてしまった。
「おにいさん」
少女のその目が冷たいものに変わった、さっきまで和気藹々とした人間とは別人だったかと言わんばかりに、言葉少なく、だけどその全身からとげで刺すような感覚を覚える、それは拒絶の目。似たような目をクロウは観たことがある、だけどその時よりも強烈で、普通の人間なら平気で物怖じさせるだけの迫力を持っていた。
クロウはすぐに失敗を悟った、警戒されてしまった以上、さらなる情報を聞き出すことは無理だろうと、それどころかこの場でやられてしまう可能性さえ感じていた。
「それ以上聞くなら、もう引き返せなくなるよ」
年齢にはとても見合わない殺気だった。学園にいた頃でも感じたことのなかったものを、もっと年齢が低い女の子から発せられる、その非現実感がクロウを一時的に停止させていた。
それはまるで小さい子猫が、獰猛な魔獣にでも変身したかのような豹変ぶり。最初は気圧されるクロウではあったが、だからでこそ一つの考えが、確信が生まれ、そして一言振り絞った。
「僕はね、諦めが悪いんだ」
そういうと少女は、またどこにでもいる小さな女の子に戻った。虫も殺せなさそうな様子の時との、その豹変ぶりにクロウは汗が止まらない。背筋を流れる汗が寒いのか、目の前の少女の迫力が怖いのか分からなくなってしまう。そうして何か言わなければという一念で振り絞った言葉、だけどもう二の句は継げそうになかった。
「おにいさんお人好しだね、そっか、お兄さん関係者だったのか、失敗しちゃった、おかあさんに怒られちゃうかも」
「だってお兄さんみたいな人初めて見たんだもん、しょうがないよね、うん、仕事すれば大丈夫だよね」
「でもここはお兄さんみたいな人が来る場所じゃないよ、今日で最後にしたいかな」
「もうお兄さんとは会えないかもしれない、でももし会えたとしたらその時の私は」
続く少女の独白に、そのあとクロウが襲われるといったこともなく、そしてその言葉の先を聞くこともできなかった。また少女は消えたからだった。
最初から何もなかったかのような壁を前にしながら、クロウの疑問は確信に変わった。あの子が今回の襲撃者だということも、そして襲撃する日の事も。
少女をその場で確保することは出来なかった、大口をたたいての体たらくにクロウは悔しかったが全くの無意味だったというわけではないのが、その自尊心を少しだけ守っていた。
少女の豹変ぶりに闇を感じたかというと、むしろ泣いて嫌がる幼子の印象を受けた。それはきっと、変わる前の会話が年相応のものに見え、それが演技に全く見えないからだった。口ぶりも、雰囲気も、屋敷と関係のある話になる前は、どこにでもいそうな少女だったからだろう。
クロウはこの依頼に参加する前からずっと考えていたことがあった、それはイルシヲに入る時に言われた、人を殺す覚悟の話だった。
結果的には無いと答え、嘘をつかない誠実さが実は必要だったという試験、だが相手が殺す気で来た場合でも、果たしてそのままでいられるのだろうかと。
ただの喧嘩に刃物を持ち出す奴はいない、ただの嫌がらせでさえ、そこまで表ざたにできないから限度だってあることをクロウはその身で知っていた。そんないままでの出来事がまるで小さなものにさえ感じてしまうほどの現実が、クロウに立ちふさがっていた。
殺し屋という言葉を聞いて、相手を殺さなければいけないのだろうかという可能性が、ずっと頭の中から離れなかったのだ。
クロウは殺さないで済む可能性についてずっと考えていた。だけど生半可な情報や覚悟では、ニールやルトラを危険に会わせてしまう可能性が高い、だから今回の企みについて話をして、納得してもらった。
クロウはそれまでの仮説をどんどん組み合わせ、そして一つの答えにたどり着いた。それは一度は思い浮かべたものながら、余りに自分にとって都合のいい話だっただけに切り捨てた、クロウにとって最適の可能性。
ひょっとして少女は、殺しをしたくないのではないのかという可能性を。
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