第6話 春の訪れ

 それ以来、私達「ふたり音楽部」は徐々に有名になり依頼も入るようになってきた。私達の歌が誰かの世界を輝かせられる、そんな機会が増えたことが、ただただ嬉しかった。そして、気づけば三年生。何処も彼処も満開の桜で覆われている。この学校にいられるのもあと一年か――。そんなことを思いながら外の景色をぼーっと眺める。


 コンコン……、


「失礼します」


 聞き慣れない声と共に部室の扉は遠慮がちに開かれた。その瞬間私の意識は現実に引き戻される。


「あの、お話があるんですけど……」


 好青年そうな彼は優しく微笑んで、後ろにいる誰かに声を掛ける。


「ほら、行くよ」


 彼はその子の手を掴み、部室に入ってくる。後ろからついてきた彼女は下を向いてもじもじとしている。恥ずかしがり屋さんなのだろうか。私と奏汰は首を傾げながらも、部屋の真ん中にあるテーブルに二人を案内する。そして、向かい合う形で私達四人は座った。


「えっと、まず初めに名前を伺っても良いですか……?」


 奏汰が沈黙を破り優しく問いかける。二人は顔を見合わせてクスッと笑ったかと思うとこちらに向き直り、


「僕は三年の紺野凛久こんのりくって言います。吹奏楽部に入ってます」


「わ、私は三年の高海朱音たかうみあかねです。軽音楽部で活動してます」


 二人は順に簡単な自己紹介をし、私達も続けて自己紹介をした。彼らも私達と同じ三年生のようだ。この中学校は周辺の幾つかの小学校から人が集まる為、一学年二百人近くいたりする。三年生になっても全く知らない人が多く、彼らもその該当者のようだ。


「まぁ、とりあえず同い年なんだし、敬語はやめよっか」


 奏汰が提案し、皆で頷く。ふっと緊張が解け、そして笑い合う。


「ところで、私達への話って何?」


 場が温まってきた所で私は尋ねてみる。すると凛久はポケットから綺麗に折り畳まれた紙を取り出し、それを開くと机に置いた。


「一緒に学園祭の舞台に立って欲しいんだ」


 凛久はこれまでとは違うトーンでそう話した。朱音も彼の横でうんうんと頷いている。


「それは、どういうこと……?」


「僕達、学園祭で舞台に立ちたいと思ってたんだけど、もう三年だし皆、受験勉強だからって断られちゃってさ……」


 まぁ、しょうがないんだけどね?なんて言って苦笑いして凛久は後ろ髪を掻く。


「それで、最初は私と凛久で舞台に立とうと生徒会に申請したら、参加の最低人数は四人からって言われちゃったんだ。それで、最近よく話に出る音楽部の二人にダメ元でお願いしてみようって話になったの」


 ねっ、と朱音は凛久の方を見て言う。

 確かに、三年生になると殆どの部活は遅くとも七月位で引退する為、学園祭がある九月に部活に所属している人は私達位なのか……。そんなことを私は一人考える。


「いいよ」


 私の思考を遮断するように、奏汰はそう一言発した。え、と二人は突然の出来事に戸惑いを隠せない様子だ。勿論私も戸惑いはあるが、これが部長奏汰の性格だからな……、なんて心の内で思ってしまう。


「ほんとに!? ありがとう!」


 凛久と朱音は手を取り合って喜んでいる。余程嬉しかったのだろう。朱音は半泣きだ。奏汰はこちらを向くと私を手招きする。そして、耳元で


「元々学園祭に出たいと思ってたんだ。俺も参加人数のことで悩んでたから、四人で出るのも楽しそうだよね」


 なんてそっと呟く。その視線は喜び合う彼らに向いていた。ふと、窓の外からひらひらと桜の花びらが舞い込んで、四つの花弁が順に机に着地し、折り重なった。まるで、私達みたいだ。そして、学園祭一夜限りのバンドを私達は結成したのだった――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る