第8話 秘密の計画

 日差しが今日もジリジリと照りつける中、蒸し暑い体育館での話が終わった。今から始まるのは中学校生活最後の夏だ。夏期講習やら何やらで予定はつまっているけれど、何処か遊びに行きたいな――。そんなことを思っているといつの間にか授業は終わっていた。


「ねぇ、かえで」


 終礼が終わり下駄箱で靴を履き替えていると、後ろから肩をつつかれた。見るとニコニコとした朱音がいた。


「何かあった?」


「夏休み、どっか行こうよ」


 じゃじゃーん、何て効果音を言いながら朱音は持っていたスマホの画面を私に見せてきた。


「プール……?」


「うん、夏といえばプールでしょ」


 途端に私は浮かない表情をしてしまう。誰か知り合いにあってしまうのが嫌でここ最近は行ってなかったのだ。


「そんなこともあろうかと、ちゃんと調べたよ」


 朱音は私の気持ちを読み取ったかのようにそう言うと再び画面を見せてきた。記事に目を通してみる。ふむふむ。隣町にあるプールのようだ。人混みも少なく、知り合いに会う確率も低そうだ。これなら行っても良いかもしれない――。しかし先程からニヤニヤしている朱音は何か企んでいるのだろうか。


「なんでそんなにニヤニヤしてるの」


「いーや。なんでもないさぁ。そうと決まれば早速色々見に行くよー!」


 朱音は私の手をサッと取ると、向日葵のように明るくニコッと笑い駆け出したのだった――。



***



『ピローン』


 スマホの着信音が鳴る。タップをしてトーク画面を開く。


「ん、朱音からか。えーなになに、こっちはOKだからそっちは頼んだよ。――ったく人使いが荒いんだから……」


 俺はスマホを制服のポケットに押し込むと足早に駐輪場へと向かった。目的の人を見つけると軽く手を振り駆け寄る。


「あ、奏汰。ちょっと良いかな?」


「凛久、何かあったの?」


 そう言いながら奏汰はこちらへ缶コーヒーを投げた。俺はしっかりキャッチするとサンキュ、と軽く言った。蓋を開け、グッと一気に飲み込む。冷たい感触が肺から広がっていくようで気持ちが良い。


「あのさ、今度プール行かない?」


 我ながら不自然な聞き方をしてしまった、と後から思う。もっとマシな聞き方がなかったものか――。奏汰はコーヒーを一口飲むと青空を見上げてうーん。なんて言っている。勿論、受験の夏だし断られるに決まって――


「いいよ」


「えっ」


 俺は思わず驚いてしまった。奏汰はニコニコと笑いながら鼻歌まだ歌っている。割とノリノリなんだ。そんなことを思いほっと胸を撫で下ろすと、『ミッション完了』と軽く打って送信した。


「んで、誰を誘ってるの?」


 彼の声が駐輪場に響く。先程までの蝉の喧騒が一瞬遠くなった気がした。彼はじっとこちらを見つめて首を傾げている。


「さぁね?」


 俺はそう濁すとご馳走様、と言って立ち上がりゴミ箱へ缶を投げ入れた。カラン……。乾いた音が最後の夏の始まりを告げたのだった――。



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