ふたり音楽部

まろん

第1話 雲ひとつない青空

 今日は土曜日。私の通う中学校では珍しく午前中に授業があり、それが終われば部活、帰宅など各々の活動が始まる。私は勿論部活に所属していない、いわゆる帰宅部の為授業が終われば真っ直ぐ家まで帰れるのだ。


 家に帰ったら何をしようかな――?


 二時間ほどの授業というものはあっという間に過ぎてしまい、SHRが終わった今の時間はお昼前。周りを見渡せば、お弁当を広げている子や部活へ向かう子などがちらほらと見受けられる。

 

 さて、私も帰ろうかな――と思っていると


「篠崎、あとであっちに集合」


 なんて言って、私の肩に手を置くと紫波先生はニコッと笑ったのだった。


 それから三十分後、彼と私は狭くジメジメとした空気が漂うこのでお互いに無言のまま向かい合っている。勿論、彼は依然とあのニコニコとした笑みをこちらに向けているが私は威圧感しか感じない。


 ガタガタ……、扇風機が古めかしい音を立てながら、私と彼の頬に生温い風を運んでくる。この部屋はエアコンもなく、窓もない。一階の一番端にあるこの部屋に誰も近づきたがらない訳だ。

 眼下に広がるのは名前だけ書いた、真っ白なままの進路希望用紙。勘が鋭い人ならば、この情報だけで今の私が置かれている状況が理解できるかもしれない。


「――そろそろ、決めないとな」


 長い沈黙を破った彼の声は私を責め立てる訳でもない、優しい声だった。


「はい……」


 私は掠れたような声を出し俯く。私はどうしたら良いのか、どうするのが正解なのだろうか――、正直言ってわからない。明日のこともわからない自分に未来の選択をしろと言われても、全く持って実感など湧くはずがないのだ。まだ中学二年生、いやもう中学二年生なのか……。

 先生は私じっと見つめてこう言った。


「すぐに決めろとは言わない、まだ時間はある。お前がやりたいことを叶えられる所に行くんだ」


 私が今やりたいこと――その言葉は私の胸に深く突き刺さった。


 あの後先生は、また何か決まったら教えてくれ、なんて言ってその日の面談は終わったのだった。

 フゥ……、私は肺に溜まったジメジメとした空気を吐き出し、私の気持ちとは裏腹にどこまでも澄み渡った雲ひとつない青空を見上げたのだった――。

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