第11話 募る想い
私達の最後の夏は、花火の様に美しくそして儚くも終わってしまった。それは、火花が夜空に散り、闇に溶けていくように――夏休みにあった出来事は、凄く昔のことに感じてしまうけれど、私の心の一頁に大切に、書き留めて置いた。
今日は、始業式。夏休みにプールに行った日から、奏汰とは会っていない。トーク画面を開いて文字を打っては消してを繰り返していたら、いつの間にか時間は過ぎていた。――今日どんな顔をして彼に会おうか。――どんな風に話しかけようか。考えれば考える程、益々どうしたらいいか分からなくなっていく。
考えてばかりじゃ、どうしようも無い。彼に会って、いつも通りに話しかけるだけ。そういつも通りに。
学校に着き、下駄箱へ向かう。彼の下駄箱は確か、私の二つ下だ。――あれ、もう来てる? 彼にしては珍しい。いつもギリギリに登校してくるからだ。あの日触れた、彼の髪の柔らかさや温もり……。身体は忘れることなどなく、ちゃんと憶えている。優しい声が頭から離れない。私はそんな気持ちをかき消すようにぶんぶんと頭を振ると、両頬をパチっと叩いて教室に向かった。大きく息を吸って、呼吸を整える。そして、階段に一歩足を踏み出した。
コツン――無機質な音が辺りに響いた。やけに静かな空間に包まれた気がして。胸のこの音が実は周りに漏れてるんじゃないのかな、なんて考えたりしてしまう。
ガラガラ……、教室のドアを開ける。クラスの皆はまだ斑にしか居ないけれど夏休みの話題で大分賑やかだ。私は窓側の自分の席に荷物を置くと、一番前に座っている彼をそっと見る。何か考え事をしているのだろうか、彼は頬杖をついて、窓の外に広がる澄んだ青空を眺めていた。そんな彼に見惚れてしまっていたから、だろうか。悪戯に時間は過ぎてしまうということを酷く痛感させられた。
「奏……」
私が彼の名前を呼び終える前に、予鈴は悲しく鳴り響いてしまった。私は伸ばしかけた、行き場の無い手を背中にそっと隠した。
「はーい、皆久しぶり。んじゃ、始業式行くぞー」
そんな紫波先生の声は、いつもと変わらずどこか気だるげで。思わず口元が緩んでしまったのだった。
***
気づけば放課後、いよいよ部活が始まる。遠慮がちに部室のドアを開けて中を覗こうとすると、いきなりドアが開けられた。
「かえで! 久しぶり。待ってたよ」
朱音はそう言って私にぎゅっと抱きつく。彼女の優しい香りがふわっと辺りに広がる。後ろから凛久も顔を出して手を振っている。久しぶり、なんて言いながら。
「あれ、もうみんな来てたんだ」
後ろから優しい彼の声がした。私はサッと振り返る。今日も彼はニコニコと笑っていて。あぁ、日常がまた始まるんだ。ってそう思った。彼は朱音と凛久に声をかける。そして、私の耳元でそっとこう囁く。
「かえで、久しぶり。この前はありがとうね」
「久しぶり、こちら……こそ」
自然に、言えただろうか。語尾が少し震えてしまった気がする。手を頬に当てると熱くなってるのが分かったし、心臓の音はうるさいくらい鳴っている。
「じゃあ、部活始めるよ」
四人の部活はあと少し。学園祭までのカウントダウンは始まった。素敵なステージを作りたい、私はそう強く思った。
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