第9話 緊急事態を伝えたいのだけど・・

 ヘッドがフラフラと痴呆症の老人・・・いや散歩をしている頃、妻のシャンは欠伸をしながらノンビリとしていた。


 そこにリンが血相を変え訪ねてきた。


 「今日こんにちはは、シャンさん!」

 「おはようリンさん。」


 「へ? おはよう? もう昼過ぎですよ?」

 「あらそう? ファ〜・・・」


 アゴが外れんばかりの欠伸あくびを見たリンは、


 「ファ〜・・・、あ、やだ私・・・・。」

つられて欠伸をしてしまった。


 「こんな天気のいい日は、寝るに限るのよね〜。

それにこの家、いい電磁波なのよね〜。」


 「まあ、この人間の電磁波がいいのは確かだけどさ。」

 「うん、リンさんのおかげよ。」

 「えへへ、もっとめていいよ!」

 「うん、リンは、可愛くて、優しくて、気が利いて、若くて、スタイルよくて、しっかりしていて、太っ腹で、太もも太くて、どっしりとしていて、重くて、え〜っと、え〜と、それから・・・。」


 「・・・あのシャンさん、無理に褒めなくていいんだけど、むしろなんか悪口になってない?」

 「あらそう?」

 「・・・・」


 「ところで、何か用があってきたんじゃない?」

 「あ、そうだ! 大変なんだ! ご主人は!」

 「あら、ヘッド?」

 「そう!」


 「え〜と・・・」


 シャンはヘッドが今朝、何て言って出て行ったか思い出そうとした。


 「あ!」

 「?!」

 「ねえ、リンさん!」

 「な、何ですか!」

 「面白いよね!」

 「な、な、何がですか・・・!」

 「ここの生物!」

 「へ?」


 「いや〜、こんなに種類がある生態系の惑星は。」

 「あ、それは確かに。」

 「どういう進化を遂げたんだろうね。」

 「そうそう!不思議だよね〜。」


 「だから、ヘッドなんてさ、早速さっそく、探索に出掛けたんだ、それも朝から、物好きよね〜。」

 「へ〜、ご亭主、新しもの好きなんだね。」

 「そう! 珍しいものを見ると、いてもたってもいられないのよ、あのバカ。」

 「まるで子供ね。」

 「そう、子供よりも子供よ、こ・ど・も。」

 「へ〜、大人のくせに子供なんだ、それも大変そう・・・。」

 「そうなのよ、まあ、手間がかかるのなんのって。」

 「へ〜、大変そう。」

 「まあ、ホッとけばいいから楽は楽ね。」

 「へ?」

 「うちは放置プレイなの。」

 「そ、そう、そうなんだ・・・。」

 「あなたも結婚したらそうしなさい、楽よう〜。」


 それを聞いて、リンは横を向いて ゲッ と小さく呟いた。

シャンには聞こえない程度に。


 これでもリンはウラワカキ乙女である。

言葉使いや態度は別にして・・・・・。

リンは結婚に夢を持っていた。

いや、宇宙人であろうとも結婚には夢がある。

え? エネルギー体生物でもかって?

・・・・あのね、リンの様子からわかるでしょ?


 だからシャンの場合は特殊なケースだと、リンは見て見ぬふりをすることにした。

まあ、この小説を読んでいる既婚者の方の多数は・・・。

やめておこう、青少年の夢を壊してはいけない。


 「今頃、私の旦那、あちこち色々な生物と話していると思うよ。」

 「そうなんだ・・、あ! ああああ!!!」

 「?」

 「旦那さん! 呼び戻して!」

 「?」

 「緊急事態なんです!」

 「へ〜、それは大変ね。」

 「そうなんです、大変なんです!」


 「じゃあ、お茶でも飲む?」

 「へ!」

 「何がいいかしら? ジャスミン? それともドクダミ茶?」

 「あの!」

 「この家、と、言っちゃいけないかな、この人間の記憶だと、梅昆布茶うめ・こんぶちゃがいいらしいけど・・、知ってる?」


 「梅昆布茶ですか?」

 「そう!」

 「確か、この人間が二日酔いした時に飲んでたっけ・・。」

 「そうなんだ、じゃあ、うちの亭主の二日酔いに・・」


 「あ!!!! 違〜う!!!!!!」

 「?」

 「緊急事態だって!!!! ご亭主、呼んで!!!」

 「だから、お茶を飲みながら・」

 「だ・か・ら、緊急事態!!」

 「ですから、お茶を・」


 「あの!緊急という意味知ってますか!」

 「ええ、知ってますよ、急いでいるんでしょ?」

 「それじゃ・」

 「お茶、用意するね。」

 「・・・お願いします。」


 リンは、お茶を出さなければ話を聞いてくれないということに気がついた。

マイペースなシャンに負けたリンだった。


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