第6話 探検開始・飼い犬

 翌朝、妻を誘って人間観察をしようとしたのだが・・


 妻はベッドから手をヒラヒラと降って、行ってらっしゃい、と一言。

あれ? 昨日は一緒に散歩がてら人間観察すると言っていたよね?

話しかけようとしたら・・


 バスッ!!


 枕が飛んできて顔に当たった。


 「行ってらっしゃい~・・オミヤよろしくね・・ふぁ~」


 欠伸をしながら、お土産催促とは・・・

仕方ない、一人気楽に散歩がてら人間でも見てみますか。

しかたなく足下に落ちた自分の枕を椅子において出かけた。


 住居として借りている人間の住処は郊外にあった。

早朝ということもあり人の少ない通りをヘッドは漂った。

すると犬という動物を紐にくくりつけて散歩している人間と出会った。

女性だった。


 犬が話しかけてきた。


 「おはよう。」(人にはワン!と聞こえるようだ)


女性「? どうしたの急に吠えて?」


 そう言ってしゃがみ込んで犬をなで始めた。


 「や、やめて、それ、き、気持ちいいから!

今、目のまえのに挨拶している最中だから!」

 

 「あ、あのね、初対面ではないでしょ?」

 「え? でもでしょ・・」

 「・・・」


女性「マロン? 甘える声を出したり、吠えたりどうしちゃったの?」


 まあ、人間にはテレパシーが聞こえないので仕方ないのだろう。

犬も声に出すと飼い主がちょっかいを出すので、テレパシーだけに切替えたようだ。


女性「よしよし、大人しくなって。

  尻尾をそんなに振らなくていいのよ?」


ヘッド 「なあ、君も大変だね、言葉が通じないと。」

犬   「まあ、慣れだね。 通じないものはしかたない。」


ヘッド 「達観してんだね?」

犬   「仕方ないだろう、おれら犬族は人間に逆らえないんだ?」

ヘッド 「? なんで? 君の方が攻撃力あんだろう?」

犬   「あのね、おれ一匹では人間に簡単に捕縛され保健所に連れて行かれちまうよ」


ヘッド 「なに保健所って?」

犬   「ああ、人間が俺等を安楽死させるとかいっている処刑場さ・・。」

ヘッド 「処刑場?」

犬   「うん、例えば人に飼われていないとか、捨てられた時に行く場所。

    あと、人間に危害を与えた俺等が連れていかれる場所の名前さ。」

ヘッド 「えっと・・何、それ? 

    飼われてないとか噛んだりしただけで殺されるのか?」

犬   「ああ、そうさ・・。

    人間が知能をつけ増えすぎた結果、俺等の運命は決まっちまったんだ。」


ヘッド 「対抗しなかったのかい?」

犬   「ご先祖様は共存を選んだからね・・子孫はとんだとばっちりさ。」

ヘッド 「そう・・なのかい?」

犬   「まあね、俺等の代では覆しようがない世界さ。」

ヘッド 「・・・」


犬   「まあ、そういう顔をしないでくれ。

    飼われていて、虐待に会わないかぎりは悪くはない。」

ヘッド 「それ以外は、保健所送りということか?」

犬   「ああ、そうさ・・

    1週間位は、そこで生きていられるようだけどね・・

    でも、死にたくも無いのに殺されることは確かだ。

    運がいいやつ、まあ、ほとんどいないけど希に引き取られる奴はいるが。

    ほとんどが安楽死という殺戮さ。

    だから散歩で保健所の側を歩くと同胞の泣き叫ぶ声が聞こえるよ。

    また、処刑される同胞の断末魔もね・・

    人は聞こえないみたいで、安楽死させているとしか思ってないが・・

    安楽死なんてうそっぱちさ。あの断末魔を聞いていなからな。

    聞かなければ、安楽死という言葉で罪がないと思ってやがるよ。」


ヘッド 「人間に分からせようと思わないのかい?」

犬   「なんで?」

ヘッド 「だって、そんな世界いやだろう?」

犬   「・・・そういう世界に生きて居るんだぜ?

    他の仲間に話したからといって、どうにかしようという奴なんていないさ。    それに俺、今は幸せだもん。 このままでいいや。」


 そう話していたときに飼い主がリードを引っ張って歩き始めた。

ちょっとの間、女性の思考を読ませてもらおう。


女性 ; 今日はマロン、様子がおかしいわね・・・

    まあ、多少、歳をとったせいかしら、元気で長生きできるように、

    散歩は欠かさないようにしているんだけどね・・

    餌を老犬用に変えてみようかしら・・


犬  : ええ~、今のままでいいよ、餌変えないでよ・・・

    まあ、そう思っても通じないのでどうしようもないけどさ・・

    それより今日の朝食は、何かがないかな~


女性 : 散歩終えたらプリンタイムね、あのプリンおいしいんだ。

犬  : プリン? 俺には食わせてくれないやつだ・・


女性 : それから、今日は彼氏が来るから肉じゃがにでもしようかしら・・

    でもマロンが肉じゃが好きだから、ちょっかいを出してくるかな・・

    あまり犬には良くないんだけど・・


犬  : いいじゃんか肉じゃがくらい!

    俺、あいつ嫌いだから横から引ったくってやろうっと。

    あいつには肉じゃがなんて、もったいない!


 ふむ・・どうやら、この人間は犬に対しては優しいようだ。

それにしても絶対君主と家来というような関係なのだろうか、人間と犬は・・


 ただ、女性が犬を心配している割に、散歩が終わってからのプリンが一番のようだ。

プリンてなんなんだろう・・まあ、そのうち住居の人間も食べることがあるだろうから、そのうちに分かるだろう。


 この女性から離れて、別の場所を漂ってみよう・・・

おや、何か叫んでいる老人がいるけど・・

ちょっと観察でもしてみようか・・


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