結果発表、行っちゃお~♪

『さてさて、淳史君。こうして顔を合わせるのは朝以来ですね~?』

「……ああ、そうだな。今、無性にお前を殴りたい気分だよ、女神」

『何で!? すぐにキレちゃう今時の若者、良くないと思います!』


 涙目だが、顔は笑っている。僕の言動など、この女神にとっては取るに足りない事なのだろう。ああムカつく。


「まぁいいさ。これでお前のギャルゲーは終わりなんだろう?」

『はぁい、全部終わりましたね~。なんかもう、最後の方は普通に楽しくお喋りしちゃってましたし、何だかんだ楽しんでくれたんじゃないですか~?』

「……ふん、眠かっただけだ」


 あの心地よい微睡みは、一体何だったのだろうか。その少し前までは、好感度を抑え込むために全力を尽くそうと考えていたのに、彼女達が来た瞬間にそんなものは全て消え去ってしまった。


 僕は結局、どんな結末を望んでいたんだ? 偽りの好意を向けられ、賑やかな毎日を過ごす事? 彼女達の存在を無かった事にして、元通りの毎日に戻る事?


 分からなくなってきたな……くそ、これも女神のせいだ。


『なんか失礼な事を考えてるみたいですけどぉ、とりま結果発表始めちゃいますよぉ?』

「……あぁ、そうだな」


 いかん、今さら何を考えたって結果は変わらないんだ。まずはそれを聞かなくては。


『ではではぁ……まずは天海藍梨ちゃん! 彼女の好感度は、78! 終盤の追い上げは凄かったですけど、最後に伸び悩みましたねぇ』


 藍梨さん。校舎裏でのほわん地獄には驚いたけど、彼女は終始僕の事を考えてくれていたように思う。彼女のまっすぐな思いに、僕は何かを返してあげる事が出来たのだろうか。


『じゃあ次、緋村深紅ちゃん! 彼女の好感度は、76! なんだかんだで彼女、一気に好感度が上がるイベントが無かったですしねぇ』


 深紅さん。彼女について真っ先に思い浮かぶのは、その天真爛漫な笑顔。そして、美味しいご飯。僕の人生の中で彼女ほどぐいぐい来る女性はいなかったけれど、不思議とそれがイヤじゃ無かったな。


『では最後に、日輪陽菜ちゃん! 彼女の好感度は……残念、79! 最終的に一番になっちゃってる辺り、ツンデレの本領発揮ってとこですねぇ』


 陽菜さん。結局、彼女との距離感は縮まったのかそうじゃないのか良く分からない。でも、そのぶっきらぼうの態度の裏で僕の事を心配してくれているのは分かる。優しい女性だったな。


 彼女達の事を思い返した後、遅れて気づく。全員、80以下。つまり個別エンドを回避出来た、という事だ。


 当初の目標を達成できた、という事だ。良かった……んだろうか。


『くふふふ、淳史君? 今さら個別エンドを逃したことを後悔しちゃってるのかなぁ?』

「ば、バカを言うなクソ女神。僕はただ……」


 何かを言おうとして、でもその言葉は出てこなかった。それを言ってしまうと、色々なモノが崩れてしまいそうで。


『ナチュラルにクソ女神って言ってくれやがりましたね……おっかしいなぁ。こんなに超絶可愛い女神様にどうしてそんな暴言が吐けるんだか』

「……そうか。神様の世界とやらには鏡が無いんだな」

『どうしてギャルゲーをプレイして罵詈雑言がレベルアップするんですかねぇ』


 女神はやれやれと肩をそびやかす。と、薄暗い空間に光が差した。


 朝の時と同じだ。という事はつまり、


「僕は目覚めるのか?」

『そういう事ですね~。まぁ今更感はありますが、私の暇潰しにお付き合いいただき、ありがとうございました』


「やっぱり暇潰しなんじゃないか。……まぁ、得難い経験をさせてもらったことについては、僕も感謝しないでもない」

『あらぁ? 淳史君ってば何だかんだでツンデレ? 可愛いなぁ♪』

「う、うるさい! と言うか、そのツンデレとは何だ!」


 意味は分からないが、何となくバカにされている事は分かる。と、光の加減がさらに強くなっていく。僕の意識も薄れ始めた。


『ではでは、この辺りでお話は終わりにしときましょうか。淳史君、お疲れさまでした~』

「……あぁ。じゃあな、クソ女神」

『最後くらい敬ってくれたっていいじゃないですかぁ! 相変わらずな淳史君なんてもう知りません。とっとと起きなさいちくしょー!』


 そう言うお前も相変わらずじゃないか。僕の意識はさらに遠のいていき、じきに途絶えた。


 その時、かすかに聞こえた声。


『あ、ゲームクリアのお祝い、後で届けますからね~♪』




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