3択問題、だが待って欲しい。本当にその3つの中に正解はあるのか?

 田代を加えた僕達5人は、程々に会話を交わしつつ学校に到着した。その間、田代に上手く話題を振る事が出来たからか、好感度が上がる事はなかった。良い兆候だ。


 だが、ここからが本番だ。学校……恐らくここも、あの女神の影響を受けて何かしら変わってしまっている可能性が高い。


 とは言え、どんな事が起き得るのか。ギャルゲーをやった事がない僕には、どうにも想像しがたい。


 まぁ、心構えだけはしておこう。僕は決意を新たに通い慣れた教室へと足先を向けた。




「おっはよ~」


 深紅さんが先陣を切って教室に飛び込む。続いて藍梨さん、陽菜さんが続く。


 そうか、女神が言うには彼女達は今僕と同じクラスの生徒だったな。クラスメイト達も当然のように挨拶を返しているし、もうそういうものだと思うしかないか。


「いやぁ、水鏡君よぉ」


 と、田代が僕の前でがっくりと項垂れる。


「どうした? 田代」

「いや……俺は今まで、クラスで間違いなく美人ランキング上位に位置している彼女達と一緒に暮らし、毎日登下校をしている君をガリ勉のくせにリア充だなと、そう思っていたのだよ」


 ……僕は今、とても失礼な事を言われた気がするのだが。ガリ勉のくせにとはどういう事だ。学生の本分は勉強だろうに。


 いや、それよりもだ。僕が彼女達と一緒に暮らしている事は、周知の事実なのか。当事者である僕にとっては今朝発覚したばかりの青天の霹靂な事実でしかないのだが……今それを言ってもしょうがないか。


「まぁ、そうか。で、だから何だ?」

「いや……女の子と一緒、っていうのも、それなりに大変だなと。深紅ちゃんはともかく、藍梨ちゃんは物静か過ぎて会話のテンションが合わせにくいし、陽菜ちゃんに至っては……目も合わせてくれねぇ」


 遠い目をする田代は、少し疲れているように見えた。ふむ、つまるところコミュニケーション能力に自信があったのに、どうにもあの3人と上手く意思疎通をする事が出来なかった事に落ち込んでいるのだろうか。


 まぁ、人と人には相性みたいなものもあるだろうし、そう落ち込む事もないと思うがな。それに、田代に会話が集まるように誘導した僕にも責任の一端がある。


 あとでジュースでも奢ってやろうかな。そんな事を考えながら、僕は田代の肩をぽんぽんと叩きながら、教室に入った。


 パッと見た限りでは、いつもの教室と何ら変わりない。いや、ちょっと教室が狭く見える、か?


 ……あぁ、なるほど。彼女達の机が3台分増えているんだ。こんな事でいちいち戸惑っていたら身が持たないな。


 僕は苦笑交じりに座り慣れた席に腰を落と


「は? おい水鏡、そこ俺の席だぜ?」


 そうとしたら、田代に止められた。そんなバカな。ここは確実に僕の席だぞ。


 だが、田代の表情はひどく真剣で、僕を訝しんでいるようにすら思えた。きっと、間違っているのは僕の方なのだろう。このギャルゲー世界においては。


(……女神め、僕の席を変えてどういうつもりだ……?)


 席が変わったところで、好感度にはあまり関係が無いように思うのだが。


 ともあれ、考えていたってしょうがない。田代に僕の席を尋ねると、お前本当に頭大丈夫か疲れてんのか、とわりと本気な心配をしてくれつつ教えてくれた。


 黒板から見て一番右奥。窓際の最後列だ。目が少し悪い僕にとってはあまり良い位置とは言えないが、まぁこの夢の中だけだ。一日ぐらい我慢しよう。


「ねぇ淳史」


 と、ようやく席に着けた僕に陽菜さんが問うてくる。


「ん? どうしたんだ?」

「ちょっとド忘れしちゃったんだけど、あたしの席ってどこだっけ?」

「……は?」


 思わず顔を歪めてしまう。と、藍梨さん、深紅さんも口々に言う。


「えっと、ね? 私もちょっと、忘れちゃって……」

「にしし、ウチもウチも! ねぇあっくん、教えてよぉ」  


 ……えっと、つまり3人は自分の席がどこか分からなくなってしまったと。いやそんなバカな。いや、さっき僕も自分の席を間違えたけど、それとこれとは違


『Q1、隣の席は誰?』


 唐突に。本当に唐突に、黒板にそんな文字が浮かび上がる。


 チョークで書いたとかじゃ、断じてない。浮かび上がる、としか言いようがないくらい滑らかに、黒板に『印字』されている。


 そんな異様な光景を、クラスメイト達は全く怪しむ様子もない。つまりこれは……ギャルゲー世界の一端、という事なのだろう。


(隣の席……僕の隣、という事か?)


 という事はつまり、僕が決めた人が本当に僕の隣の席に座る事になるのか。なんだその訳の分からない設定は。


 ……とりあえず、答えてみるか。


「えぇと……深紅さん、かな」

「にしし、そっか。ウチ、ここだったね~」


 そう言って、隣の席に座る深紅さん。よし、確定だな。そういう質問なわけだ。


 ほわん


 ……好感度が上がるおまけ付きか。


『Q2、前の席は誰?』


「……陽菜さん」

「そうだったわね、何で忘れてたんだろ」


 そんな事、こっちが聞きたいな。そんな言葉をどうにか喉の奥に押し留める僕の前で席に着く陽菜さん。


ほわん


『Q3、斜め前の席は?』


「藍梨さん」

「あはは……ごめんね、淳史君。変な事聞いて」


 いや、君が謝る必要はない。君にとっては創造主のような存在なのだろうが、あの女神が全ての元凶だ。


 ほわん


 ともあれ、僕達4人は席に着いた。……席に着くだけなのに、バカみたいに時間が掛かったな。


 一応好感度を確認すると、藍梨さんは4、深紅さんは12、陽菜さんは8増えていた。どの席を選ぶかで上がり方に差があるのか……って、席を選ぶだけで上がり過ぎじゃないだろうか。


(……しかし、ギャルゲーとはこういうものなのか? 姉さんの乙女ゲーにもこんな展開があったのだろうか……)


 って、冷静に考えたら僕の席、3人に囲まれているじゃないか。僕の席を変えたのはそれが狙いか、女神め。



 好感度ラブチェッカー


『天海藍梨 14』


『緋村深紅 20』


『日輪陽菜 23』



女神様の一言

『ええ、ギャルゲーとはこういう選択の繰り返しです……よね? こんな感じですよね、ギャルゲーって? てか淳史君、私の扱いがどんどん雑になっていってませんかね……』


 


 


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