大事な事なので二度訊きました
「おいクソ女神。さっさと出て来い」
『はい、いますよ~?』
体育の授業が終わり、田代に体育倉庫での事の次第と、僕にやましい気持ちが欠片も無かった事を5回ほど力説し、それでもニヤニヤ笑い続ける彼にデコピンをお見舞いした後。
着替えを終えた僕は、一日の終わりを締めくくる掃除の時間。掃除場所である音楽室の隅でスマホを握り締めていた。
『なんかもう、淳史君にぞんざいに扱われるのにも慣れてきちゃってる私がいますねぇ、はい』
「僕は話す相手に相応しい言葉遣いを心掛けているだけだ」
『これでも私、女神様なんだけどなぁ……』
その力をギャルゲーなんかに費やしている輩が何を言う。僕は大きく息を吐いた。
「手短かに訊くぞ。このギャルゲーのルールについて、だ」
『はい? ルール、ですかぁ? 最初にしてあげたのに……淳史君ってば、お勉強は好きなのに記憶力は悪いんですかね?』
「どこぞのクソ女神が要領の得ない最低限の説明だけして、僕をこの世界に放り出してくれたからな」
『はい、すみません……どうぞ、なんなりとお聞きください』
しゅん、とした声。だが、僕には分かるぞ女神。お前、この場を乗り切る為に反省したフリをしてるだけだろ。
いや、これ以上追及したところで時間の無駄だな。僕は本題に入った。
「このギャルゲーは、好感度が80に到達しなければ個別ルートには到達しない。間違いないな?」
『そうですよ~。ってか、なんだかんだ言って3人ともほとんどリーチじゃないですかぁ。藍梨ちゃんにいたってはあと3でゴールですし。楽しんじゃってますねぇ♪』
その積み上げられた好感度の内、僕の意志と無関係なイベントで上がったモノがどれだけあった事だろう。そう思うと、今現在の好感度は女神の思惑通りに上がってしまっている感が否めないな。ムカつく。
「そして、このギャルゲーの制限時間は、今日一日が終わるまで。それも間違いないな?」
『はい、そうなりますね~』
「よし。ならば、更に細かい説明を求める。今日一日が終わるまで、というのは、具体的にいつまでだ?」
その言葉を素直に捉えるのであれば、『今日と言う日の午前12時を迎えた瞬間』、だろう。それが一番明確で分かりやすい『一日』だ。
が、僕と言う人間にとっての『一日』は『朝起きてから夜寝るまで』だ。僕は普段から午前12時ぴったりに眠りにつく、なんて器用な真似をしたことは一度も無いので、2つの『一日』に対する考え方には必ず齟齬が生じるはずだ。
「午前12時までを指すのか、僕が寝るまでを指すのか。そのどちらかによって、僕の行動も変わってくる。必要な情報だ。答えろ」
『……なぁんか高圧的なんですよねぇ、その訊き方。やっぱり私が女神様だって事をしっかり理解してもらった上で、それ相応の態度で接してもらわないと」
「よし分かった。もうお前には頼らない。このスマホは今ここで壊す」
『だぁぁぁぁ待って待って待って! 私が悪かったですから! もっと私とお話して下さい淳史様!』
女神に様付けされた。でも全く嬉しくない。不思議だな。
『で、制限時間についてですよね。正直、今の今まで明確に決めてなかったんですけど、今日の午前12時まで、って事にしましょう。……そうでもしないと淳史君、家に帰った瞬間に寝ちゃいそうですし』
「……ちっ」
『今舌打ちしましたよね!? あっぶな! 私、淳史君に都合の良いルール改変するとこだった!』
まぁ、実際はそうでもない。確かに、すぐに眠って強制的にギャルゲーを終わらせる事が出来るのであればメリットになり得るが、逆に言えば女神の妨害などで睡眠の邪魔をされたら、だらだらと終わりを引き延ばされる事になったかもしれない。
午前12時……残り7時間ほど、か。短いとは言えないが、下校した後であればやりようはある。いや、やらなければならない。
何せ、女神が言うように3人の好感度がヤバい事になってしまっている。一番低い深紅さんですら69。1日でここまで好感度が上がるギャルゲーなんて、もうそれはギャルゲーとは呼べないんじゃなかろうか。
「おい水鏡! スマホいじってねぇで手伝えよー」
と、声を掛けてきたのは田代だ。気が付けば同じ掃除場所の担当になっていたのだが……これが腐れ縁とかいうヤツか。
「あぁすまない。……というわけだ、僕は掃除に戻る。じゃあな」
『わっかりました~。あ、それじゃあ最後に』
ほわん
「……おい、今のは何だ」
『いやぁ、もう聞き慣れたもんでしょぉ? 深紅ちゃんだけ70になってないのは可哀想なので、ちょっとだけ上げておきました。てへぺろ♪』
気が付けば、全力でスマホを地面に叩きつけていた。大変残念な事に、スマホは五体満足で無事だった。
好感度ラブチェッカー
『天海藍梨 77』
『緋村深紅 72』
『日輪陽菜 73』
女神様の一言……は呟ける状況じゃないっぽいので、ちょっとお休みします。
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