簡単にへし折れないモノ、その名はフラグ
さて、現状を整理しよう。
彼女達が僕に向けてくれている好感度。藍梨さんは77、深紅さんは72、陽菜さんは73。非常によろしくない数値を叩きだしている。おのれ女神め。
女神の言う通り、ゴール……個別ルートは目前。となると、ノーマルエンドを目指す僕が取るべき行動は大きく分けて二つ。
どうにかして彼女達の好感度を下げ、ゴールを遠ざけるか。
ひたすら現状維持を続け、なんとか逃げ切るか。
前者については、何度か方法論を考えてみた。最悪の場合、彼女達の嫌がる事……例えば、胸を触ったりして強引に好感度を下げる事も視野に入れていた。男として唾棄すべき最低の行為だが、背に腹は代えられない。
が、それは図らずも先ほどの体育倉庫でやらかしてしまった……ようだ。挙句、下がるどころか好感度が上がった。僕にどうしろと。
こうなるともう、どうして今朝の登校中に好感度がでゅーんしたのか、全く分からない。ので、好感度を下げる方針は現時点で完全に却下した。
「よって、『オペレーション現状維持』を発動する!」
……なんかノリが女神っぽくなってきてしまっている気がするが、今は気にするまい。うん。
掃除の後、部活に入っていない僕は速やかに帰宅。当然のように女性陣も帰宅部となっていたので一緒に帰宅する事になったが、無理やり同道させた田代を避雷針にして帰宅中の好感度の上昇を回避。ここまでは順調だ。
だが、田代とは家の前で別れてしまった。ここからは少しばかり強硬策を取らねば乗り切れそうにないな。
「というわけで、僕は今から勉強をします。集中したいので、そっとしておいてくれると助かります」
僕はそう宣言した。無論、彼女達との不必要な接触を控え、好感度の上昇を防ぐ狙いだ。
「え~~、つまんなーい。あっくんがお勉強するなら、ウチも一緒にお勉強する~」
「どうにも人と一緒だと気が散ってしまう性質なので、今日は一人にしてもらえると助かります」
「……えっと、ご飯も一緒に食べない、の……?」
「ああ。とにかく今日は集中して自分を追い込みたい気分なんだ」
「ちょっと淳史。あんまり無理したら体壊すわよ」
「心配ありがとう。そこまで頑張るつもりは無いから安心して欲しい」
3人の言葉をどうにかかわす。心は痛むが、この場はもう心を鬼にするしかない。ちょっとのミスで
「……うん、分かった。頑張ってね? 淳史君……」
「ったく、しょうがないヤツ。勉強に飽きたらいつでも出てきなさいよね」
「にはは! 晩御飯、後で持ってってあげるから、楽しみにしててよ~?」
それぞれ僕を励ましてくれた後、彼女達は僕の部屋を出て言った。甘い香りが僅かに残された自室で、僕はほぅと溜息を吐く。
「よし。あとは、時間を待つだけ……」
と言っても、まだ5時半。あと6時間以上ある。宣言通り、勉強をしながら約束の時を待つことにした。
7時半。ノックの音が響く。
「はい」
「あっくん? 晩御飯持ってきたけど、ここに置いといていい?」
深紅さんの声だ。僕は勉強の手を止めてドアを開けようとして……やめる。
「ありがとう。そこに置いといてください」
「ん、分かった! お勉強、頑張ってね~?」
ほわん
くっ、上がったか。確認すると、75。3上がっていた。
いや、直接晩御飯を受け取っていたらもっと上がってしまっていたかもしれない。僕は最善の手を選んだはず。そう自分を説き伏せ、僕は深紅さんの作ってくれたご飯をじっくりと味わう。とても、とても美味しかった
9時15分。再び、ノックの音。
「淳史君……大丈夫? 倒れて、ない?」
藍梨さんだ。彼女の好感度は77……慎重を期さなければ。
「ああ、大丈夫だ。心配しないでくれ」
「なら良いんだけれど……ホント、無理しちゃダメ、だからね?」
「分かっているよ」
極力、言葉数を少なく。どんな言葉が彼女の心に響くか分からない以上、不用意に言葉を重ねるべきではない。
その甲斐あってか、彼女の足音が離れていってもほわんは鳴らなかった。……けど、ちょっと素気無かったかもな。申し訳ない事をした。
10時25分。三度、ノック。
「淳史。お風呂空いたけど、どうするの?」
陽菜さんだ。僕は少し考え、
「すまないが、今興が乗っているんだ。後にしてもらえると助かる」
「勉強の興が乗るって……まぁいいけどさ。ちゃんと寝る前には入りなさいよ」
「ああ、ありがとう」
風呂ぐらいは入っていいのでは、と一瞬考えたが、あの女神の事だ。僕が入浴中、事故を装って女性陣を風呂に近づける、みたいな事を仕組んでくるかもしれない。いや、仕掛けてくるに違いない。
僕には分かる。その手には乗らないぞ、女神め。
そして現在時刻、11時48分。残り、12分。
事ここに至ると、勉強なんて全く手に付かない。僕は教科書を閉じ、思いっきり伸びをした。
(あともう少し……もう少しで、終わる)
そんな事を思い、半ば勝利を確信した。まさにその時。
「あっく~ん、あ~そぼっ!」
ノックの音もなしに、溌溂とした声が雪崩れ込んできた。誇張抜きに、僕は飛び上がって驚いた。
「み、深紅さん!? どうして……」
漏れ聞こえる音から察するに、彼女達はリビングで何かの映画を見ているようだった。このペースなら12時まで終わらないだろう。そう判断していたのに……、
「だって、あっくんいないとやっぱつまんないもん」
「あんたは数分おきに淳史の事気にしてたもんね。いい加減鬱陶しかったから、こうやって遊びに来て上げたってわけ」
「あはは……淳史君、休憩中? トランプ持ってきたんだけど、一緒に息抜きしてもいい、かな?」
パジャマ姿の3人は、シャンプーの匂いを漂わせながら部屋に入ってきた。なんかもう、ここに居座る事が半ば確定しているようにも思えるが……、
「ああ、そうしよう」
僕は自然とそう返していた。拒否の言葉を紡ぐ気に、なれなかった。
何と言うか、眠くて頭が回らなかった。意識はわりとはっきりしてるのに、細かい事を気にするのがひどく面倒で。女神が何か仕掛けてきたのかもしれない……いや、他人のせいにするのはやめよう。
多分それが、僕の偽らざる本心だった。それだけの事だったんだろう。
「ホント、あっくんって勉強が大好きだよね~」
「いや、好き嫌いではなく、これは学生の本分であって」
「あー、そういう堅っ苦しいのは抜き! 息抜きっつってんでしょーが」
「……そういう陽菜さんは、気を抜き過ぎじゃないか? だから現国の時間に居眠りを」
「うっさい!」
「ふふ、それでいいんじゃないかな。みんな違う方が、一緒にいて楽しいと思うし……」
「ああ、それには同意だ。3人がいてくれて、今日はホントに楽しかった」
「何よ、今日は、って。明日もどうせこんな感じよ」
「そうそう! やっぱり学校は楽しんでこそ、だよね~」
他愛ない事を、話した。トランプに興じはしたけど内容はほとんど覚えていないし、ほわんって何度かなったが好感度の確認はしていない。
半分寝ているような、
『はぁいそこまでぇ! お疲れさまでした~』
冷や水を浴びせられたかのように微睡みから覚めた時、僕の前には彼女達じゃなく、女神が立っていた。
好感度ラブチェッカー
『天海藍梨 ??』
『緋村深紅 ??』
『日輪陽菜 ??』
女神様の一言
『スマホごと叩きつけられた可哀想な美少女女神(つまり私)、完・全・復・活! って事で、楽しい楽しい結果発表のお時間がやって参りましたよ~?』
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