第7話『異界渡りの神器』

「さて、今日もガチャ……。じゃなかった籤を引くか」


 籤引きし師の能力は、ランダムでR(レア)~SSR(最高レア)までのアイテムを一日一回、召喚する事ができるアイテムである。ヒデオの目の前の虚空に『籤を引きますか』と書かれた巨大なポップアップのボタンが表示され、そのボタンをいつものように押す。


 ヒデオは、ガチャを引く際にオカルト理論を信じている。ヒデオの信じるオカルト理論は数知れないが、一例を挙げると、丑三つ時にボタンを籤を引く、金色系のモンスターを倒した後に引く、全裸で引く、トイレの個室で引くなど様々ある。


だが、おそらく実際のところは籤引きで何が引けるかということと、そのオカルト理論との直接的な因果関係はないだろう。


「なんだこりゃ……。外れか?」


 虚空からふわりと落ちてくるのを手で掴み取る。


「なんだこりゃぁ?! アイテムのレアリティー表記がねぇじゃねえか。これは、地球というイレギュラー環境での異能行使だからかぁ?」


 籤引き後に出てくるアイテムには、必ずレアリティー表記、アイテム名などが記載されているのが常であるが、このアイテムにはその記述が無い。見た目は、完全にただのガムテープにしか見えない。アイテムの名称は、異界渡りの結界。このアイテム説明欄には見慣れない記述があった。


「えーっと。なになに——『このアイテムはヒデオが異世界に渡る際に利用した異界渡りの儀式道具の一つであるという伝承が残されている『三種の神器の一つ』である。このテープで目張りされた空間は外からの侵入も内部からの脱出も許さない絶対的な結界領域となる。古くはミステリー小説の密室造りにも用いられたアイテムである。異界の形成においては密室空間の形成は非常に重要な要素である』……んだこれぁ。説明文に書いている内容も意味分からねぇ。異界渡りにアイテムを使った覚えもねぇぞ。バグってんじゃねぇか?」


 だが、ヒデオはこのなんの変哲もないガムテープを見ていると、何だか落ち着かない。……意味もなく息が苦しくなり、動悸がとまらなくなる。


「こんなしみったれたアイテム捨てるに限るぜ」


 ヒデオがアイテムを投げ捨てようとすると、まるでサイレンのように鳴り響くアラート音と、目の前の空間に赤く点滅する警告メッセージが表示される。


 『このアイテムを捨てることはできません』。呪いのアイテムを拾った時とも違うメッセージがポップアップされる。


「…………。考えても仕方ねぇやな。寝るか。展開、どこでもテント」


 車のスクラップ場でテントを展開する。見た目は小型のテントであるが、内部は2階建ての豪邸というような造りになっている。ヒデオが異世界の仲間と一緒に過ごした空間でもある。ヒデオは、考えるのをやめ眠りについた。

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