第8話『籤引き師とスクラップ工場』
ヒデオが、SRアイテムである『どこでもテント』の、ベットの中で目を覚ますと、すでに午前11時であった。
「ちっと寝すぎたか……。あの陰気な小僧が俺を殺すっていっていたのは、確か明日だったか。まぁ、いざとなれば負ける気はしねぇが。妙に気になることを言ってやがった。ちっとばかし、癪だがぁ、一応あの小僧の言葉は頭には入れておくかねぇ」
テントの中のクローゼットに、転生時に着ていた時のスーツがあったので、それに着替える。見た目はただのスーツだが奴隷幼女のリデルが魔改造したものであり、ステータス上昇や状態異常耐性などが付与された服になっている。
ヒデオはスーツに着替えて、テントの外から出ようとする。
「……。っとその前にっと、籤引き師としての仕事をしとかなきゃな。一日一回のガチャを忘れずにしなきゃもったいないもんな。さーて、今日は何が出てきますやら」
正確にはガチャではなく、籤引きである。ヒデオは目の前の虚空に、ポップアップする
「……なん……。なんっなんだよ……一体……」
言い知れぬ不快感。落ちてきたのは昨日と同じようにレアリティー表記のないアイテム。アイテム名は、『異界渡りの香』。だが、見た目は明らかにただの練炭であった。アイテム欄の説明の項目にはこう記述されている。
『このアイテムはヒデオが異世界に渡る際に利用した異界渡りの儀式道具の一つだという逸話が残されている『三種の神器の一つ』だ。この香を結界空間内で焚く事によって魂と魄との繋がりを断つことができる。肉体という牢獄から抜け出し、魂となることによって、現実世界と異世界との境界を極限まで薄くすることが可能となる。異界渡りにおいてこの香を焚く事は非常に有効である』
「練炭……。ガムテープ。——、何か、何かっ、あぁ、頭が、……痛い」
ヒデオは、突然の嘔吐感に堪えられず、その場で吐く。昨晩は元の世界に帰還した一件で余裕がなかったこともあり、吐しゃ物は、胃液のまざった水くらいであった。
「……あの余言者という小僧のかけた、呪術の類か。遅効性なのが質が悪いな。へへへ……そうだ、きっと呪いだ。これは、あの陰気な小僧の呪いか何かだ。そうじゃなきゃ説明がつかねぇよなぁ。あはっははは」
ヒデオは言葉ではそう強がりながらも、内心では、少年の言葉が真実である予感を感じつつあった。この強がりは、現実を直視する事に対する先延ばしにするための現実逃避でしかない。
ヒデオは外に出ると、そこは昨日と同じスクラップ場だった。正確には元スクラップ工場である。何らかの事情で閉鎖したスクラップ工場跡地である。今は、管理者のいないこの場所は、鉄くずの不法廃棄物置き場となっており。出入口はチェーンで封鎖されていた。
鉄の錆びたような臭いと、何らかの薬剤の交じり合った名状し難い臭い。異世界では存在しない、陰鬱で無機質な臭い。頭上の空は、ヒデオの内面を投影したかのような灰色に覆われているように思えた。
「——アイテム使用。遺失物捜査弐号」
ヒデオの円周上の一定範囲にソナーが展開される。そのソナーの範囲内に自分の所有していたアイテムがある場合は、電子音でそれを知らせてくれるというアイテムだ。
「反応、あり……か。確認に行こう」
ヒデオには、そこに何があるかの確信のようなものがすでにあった。だが、その可能性を考えることは愚か、言葉にすることすら忌むべきことのように思われた。口の中が乾き、鉄のような味がする。まるで警告音のように耳鳴りが鳴り響くが、その場所に進む。
「——アイテム鑑定」
スクラップにされたペシャンコの車から激しいソナー音が放たれている。レアリティー表記は無し。アイテム名は異界渡りの箱舟、アイテムの説明欄にはこう記述されている。
『このアイテムはヒデオが異世界に渡る際に利用した異界渡りの儀式道具の一つだと考察されている『三種の神器の一つ』である。これは異世界に渡るのに必要な触媒である。だが、今は何者かによってこの箱舟は完全に破壊され、異界に繋がる門としては機能しないであろう』
「あは……。あははっははっはは!! はっ……あっ、ああああああああぁ嗚呼アアあゝアァァァぁあああ々々々々々々々々嗚呼っ!!!!!!!!」
転生する前後の記憶が、書き換えられる。車の中で練炭を焚いて死んだ。それがヒデオ……。
「俺、なんで自分で死のうとなんて思ったんだろうな。思い出せねぇ。全く思い出せねぇ。でも、生きている時もろくなことがなかった記憶はある。こんな世界に戻ってきたくなかった。元から異世界にいる時からそんなことは望んでいなかった! なのになんで俺は今ここに居るんだ……。わからねぇ、全然、分からねぇ……」
記憶の急激な改変の負荷に耐えきれずに、ヒデオはそこで意識を失った。
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