第二章:アラフォー追放者ヒデオ

第6話『アラフォー追放転生者——ヒデオ』

 五嘉は、いつもの漆黒のローブを着て、眼下の異世界帰還者に向けて告げる。空には、二つの月が輝いている。


「キミの余命はあと3日。8月23日18:23。その時にボクはキミの命を回収にくる。それまではこちらからは手を出さない」


 五嘉の眼下の異世界帰還者は応える。


「ほう。大きく出たなぁ、小僧。お前、俺を——殺そうっていうのか?」


 ヒデオは、残業続きの毎日の中で過労死んだアラフォーの異世界転生者である。彼の職業は、籤引きくじびきし。ランダムで1日一回、どこぞの次元からランダムでアイテムを引き当てる能力だ。


 ただ、マイナーな職業であることと、魔王討伐に役に立たないと勇者から判断され『お前、使えないし、おまけにおっさんだからパーティー追放な』と宣言され、あえなく勇者一行のパーティーを追放され、路頭に迷っていたところを、


 ヒデオは(性的な目的ではなく純粋に命を救うという善意の目的により)有り金をはたいて購入した健気な奴隷幼女リデル(合法)と、


 ヒデオと同じように『使えない』という理由で、賢者パーティーを追放された、ツンデレな獣人の幼女テト(合法)という、異世界のはぐれ者メンバーと異世界を冒険していたのだ。


 ——パーティーメンバーに幼女しかいないのは、偶然である。特にヒデオが意図したものではない。


 ヒデオは、籤引き師の力で引いたアイテムをギルドに売って国一つ分を買いとれるくらいの大金を稼いだり、SSRアイテムを活用して無双をして、幼女たちとお気楽無双冒険をしていたのであった。


 そして、奴隷幼女リデルと宿屋のベットで(奴隷幼女リデルとの間に一切性的なあれこれはなく、純粋に抱き枕としてハグをしていたため、合法の範囲内であることをご承知おきいただきたい。


 むしろ親子の触れ合いのような微笑ましい光景のはずである……、きっと。多分)一緒にベットで寝ていて、起きたらこの世界の、車のスクラップ上で目覚めた転生者だ。


 ——そのヒデオに対して、五嘉は告げる。


「そういうことになるかな。ただ、キミが望まない限りは余命が来る数時間前までは手出しはしない。これは契約であり、絶対だ」


「へぇ。魔法使いの小僧。見かけによらず随分と修羅場を潜ってきた感じがあるじゃねぇか。てめぇ、溢れ出る強キャラ感が隠しきれてねぇぜ。へっ……」


「一応訂正しておく。ボクは余言者。キミの余命を告げるモノだよ」


「なるほど、分かった。魔法使い君」


「キミに残された時間はとても短い。キミが転生する前のこの世界でなすべきことを、やり残したことをやり遂げることをお勧めするよ」


「やり残したこと……? ねぇな。強いて言えば、すっとこどっこいの後輩の山田のフォローが出来なくなったことくらいだ」


「ボクが提示できる助言は二つ。まず、最初にキミの転生の起点となる『三種の神器』を揃えると良い。。後者の助言の意味は三種の神器を集めれば、分かる——かもしれない。いずれにせよ、キミがどう理解するか次第だよ」


 余言者の少年、雫月五嘉はそう告げるとくるりと振り返り、異世界帰還者ヒデオに背を向けて歩く。


 (——甘い。所詮は、ガキか)


 隠し持っていた投擲用の果物ナイフと同等の大きさの小刀を少年の背中に向けて投擲する。その投擲ナイフは闇夜をクルリクルリと空中で回転しながら少年の背中に——、刺さらず、背中に当たる直前で、何かに阻まれ当たる事はなく落下した。


 ——事前に五嘉が背面に展開していた暗器——蜘蛛の糸によるものであった。


「ボクの背中には目があるからね」


「けっ。——どんな手品かは知らねぇが見かけ通り、なかなかに食えねぇガキだな」


 ヒデオの投げた投擲ナイフは、追放された際に最初に籤引き師の能力で引いたSSRアイテム。その名も『無限ダガー』。


 文字通り、所有者の左右の手から無限にダガーを出現させることができるアイテムである。同時に左右の手に保持することができるのは、二本まで。投擲された時点で、新たな無限ダガーを現出させることができるという仕様のSSRアイテムだ。


 この武器の殺傷力は決して高くは無いが、状態異常『麻痺』を誘発させる武器であり、ヒデオが異世界のモンスターを仕留める際のサブウェポンとして愛用していたものだ。


 ヒデオにとっては様々な修羅場を潜り抜けてきた、戦友ともいっていい程信用をおいている武器でもある。


 五嘉は、そのまま振り返らずにゆっくりと前へ進む。しばらくすると、どこに隠れていたのか小柄なメイド服の銀髪少女があらわれ、付き従うように少年と並び歩いて立ち去っていった。


「……。んだよ、あのガキ。銀髪幼女とは俺好みの幼女連れてんじゃねぇか」


 五嘉は、メイド服の少女ミリアの駆る、スズキ・GSX1300Rハヤブサの後部席に座る。五嘉は、ミリアの腰に手を回し、その腕が回りきるや否や、フルスロットルでそのままヒデオの元を走りさる。


 スズキ・GSX1300Rハヤブサは130cmのミリアにはあまりにも不釣り合いな、モンスターバイクである。


「しーくん、さっき結構危なかったナノ」


「そうだね。ミミから無線であのおじさんの不穏な動きを教えてもらわなければ間抜けにあのダガーに刺されていたところだよ。そうなったらあのヒデオという人も、ボクの余言なんて一切信じなくなるだろうし、作戦は失敗で期日前倒しで強制排除しか方法がなくなっていたところだ」


 雫月五嘉の耳の中には、超小型のスピーカーマイクが仕込まれている。背後からの不意打ちをまるで予見したかのように対応できるのも、五嘉の死角にいるミミの通信でのサポートがあるからに他ならない。


「大丈夫。私はしーくんが失敗した時のためのバックアップでもあるナノ」


「まあそうなんだけど、さっきは死なない前提で話してたけど、普通ナイフに刺されたら当たり所悪ければ人間、死ぬからね。助けてくれて、ありがとう」


「どういいたしましてナノ。おのおじさん眼光が鋭かったナノ。私のことを見る時の目がなんというか獣を見るような目立ったナノ」


「——あのおじさんのあれは、多分そういうあれじゃないと思うけどね」


「それに、あのおじさん、しーくんのこと強キャラって言ってたナノ」


「ボクは余言者なんていう胡散臭い役割だからね。積極的に強キャラ感を出していかないと発言の説得力でない。ボクを信じられなければ、ボクの余言も助言も信じられない、そうなったら失敗だ。だから、狙った効果が出ているわけだけど、ちょっと『強キャラ』なんていうと照れちゃうよね」


「全然照れている感じはしなかったナノ。しーくん、表情筋が死んでいるナノ」


「いかなる時も余裕があるように振る舞う、それが余言者のコツだよ」


「はったり力が凄いナノ。さすがしーくんナノ」


「いつも褒めてくれてありがとうね。嬉しいよ。今のボクの顔はちょっと見せられないかな。バイクの後部席に座っていて良かったよ」


「しーくんの表情差分を見られるのはミミだけの特権ナノ。誰にも譲ってあげないナノ」


「なんなら表情差分のおまけに、イベント用の一枚絵もおまけにあげるよ」


「しーくん、えっちナノ。一枚絵は私以外の女の子だったら怒るナノ」


「エロゲネタにも律儀に反応してくれる、ミミのそういう所、好きだよ」


 ヒデオの帰還し、目覚めた車のスクラップ工場を後にし、黒いローブを着た少年とメイド服の銀髪の少女は夜の闇に溶けていった。

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