第9話 彼方より時を告げて

所によっては音楽が時を知らせる場合がある。朝、正午、夕方、夜・・・タイミングはどうあれ、一度くらいは聞いたことがあるのではないだろうか?

秋田の祖父母の家に遊びに行った時、朝は町民歌で起き、昼は学校のチャイムとともにご飯を食べ、夕方の夕焼けこやけで宿題を始める。しまいには夜、蛍の光を聞きながら(少し怖かった気もする)眠りについたのだ。こんな体験をしていたため時報の音楽を聞くと時間と私が一体化したような気分になるのだ。

大学では寮住まいだった私は、そこの屋上に上り街の風景を見るのも好きだった。夜明け前、街が動き出そうとするところは例えその日に単位を賭けたテストがあろうと、そのテストが絶望的でも希望を感じさせるものだった。その日も課題に夜を徹して取り組んでいた。明け方、リフレッシュしようと屋上に上る。するとどこからか聞こえる曲・・・さくら、さくら、花盛り・・・

その曲は街の雰囲気と合わせ私を勇気づけるものであった。よし、今日も頑張るか。ダメで元々。出してみよう。そうして私は意気揚々と課題を出しに行った。例え結果が花盛りとはいかなくても。

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