人間として不適切

酒戸津真実

第1話 卵焼き

あなたの食べてきた卵焼きは甘いだろうか?多くの人(私が東北出身だからそう感じるのか?)は甘い、と答える。また、お寿司の玉子や市販品も甘く、甘い卵焼きは多数派・・なのだろう。

そんな中で私の家は少数派であったのだろう。私の家で卵焼きはめんつゆで味付けされた、これぞおかずといったものである。もちろん幼い頃から食卓に上がっていたので違和感こそなかった。ただ、前述の通り甘い卵焼きが多数であったためこの話をすると同級生に驚かれたものだった。

卵焼きが甘くない理由は単純で、私の父親がそういう味付けが好きであるうえに甘いものをおかずとして食べることがあまり好きでなかったからだ。加えてどちらかといえば亭主関白気味の家庭だったため、このような卵焼きになるのも自然なことであった。

毎朝の食事はもちろん、中学校・高校の弁当にもこの卵焼きがあった。大学入学までの実に18年間もこの卵焼きに支えられてきたのだ。

ある日、スーパーマーケットで母親の味を謳う卵焼きが売られていた。しかも醤油味と書いてある!私はすぐさま買い物カゴに入れ会計を済ませた。家に帰り食してみると、確かに美味しい。美味しいのだが甘い・・・醤油味、いや母が作ってくれたものを想像していた私にとっては今ひとつなものであった。

おふくろの味、といえば肉じゃが、カレーライスと色々あるだろう。だか私にとっては甘くない卵焼きがおふくろの味である。日々を支えてくれた、楽しい日もちょっとつらい日も朝にはその卵焼きがあった。幸いにも母は健在である。次帰るときには卵焼き作ってもらおうっと。もちろん甘くないやつ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る