第8話 青春は甘く、ちょっぴり苦く

たった40円で風景を思い出すことができるなら安いものではないだろうか。

私は地元の中学ではなく別の中学に通っていたため、朝早く出る必要があった。といっても自転車通学のため、道路状況によっては少し寄り道をしても朝学習の時間に間に合った。

寄り道先は、スーパーマーケット。24時間営業で、それなりの大きさがあった。私はそこで缶コーヒーを買って、授業前に飲んで気合いを入れていたのだ。

当時の私は一本100円する缶コーヒーを買わず、40円で売られていたサンガリアの缶コーヒーを買っていた。深い理由はなく、ただ安かったからだ。サンガリアの甘いレギュラーコーヒー。今はブラックでやっと目覚まし代わりになるのだが、あの時はそれだけで授業をしっかりと受けることができた。毎日のように買っていたため、同級生から飲み過ぎを心配されたこともある。ただそんな大量に飲むお腹の容量も、お金も当時はなかった。ただ授業を受け、部活をし、テストで撃沈する毎日であった。

今はそれなりに働いており(といっても先輩に叱られてばかりであるが)自動販売機で缶コーヒーを買うことにためらうことも無くなった。しかし、時よりサンガリアの缶コーヒーを飲んでしまう。そして目を閉じると思い出す、通学路、校舎、教室・・・ああ神様、仏様、いや誰でもいい。どうか出来ることならあの日々をもう一度与えては頂けないでしょうか?無理ですか、ならば私は缶コーヒーを買いに行きましょう。青春を思い出し、ゆっくりと味わうために。


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