第18話襲撃と逃走

セウレヴィーラの情報を聞いて1つ分かったことがある。

エミリアの奪還に憲兵が一枚噛んでいることだ。

セウレヴィーラほどの人物を動かすことができるのは、太いパイプのある軍しかありえないはずだ。

ディリードならそう言うはずだ。


「アッシュ大丈夫!?」


気付けばエミリアが遠くからこちらに駆けてくる。


「お前は約束はどうした!!ただでさえ注目されてんだ。来るんじゃねぇよ!」


物騒な物音と人混みの多さで宿に1人でいることが、不安にでもなったのだろう。

アッシュはそう思っていた。

しかし、


「違うの!!私達の宿が襲撃される予言が出たから逃げてきたのよ。あなたがここにいることも分かったから」


エミリアが慌てて否定するその最中、爆音が轟く。

熱で温度が上昇した生暖かい風がアッシュとエミリアの髪を通り過ぎる。


「ーーーー仮に予想できたとしても、真っ直ぐこっちに向かってきたのはマズかったな」

眉間のシワを深くし睨みつけるように広場の通路を睨みつける。

この場所は植木で区切られた広場だが、それを取り囲むように波長が押し寄せて来ていた。


「お前がどういう人間か分かっているなら、逃げることも想定の内だろうさ。クソ、どんどん来やがる」


「あ!」


状況が理解できたのかエミリアが一言声を漏らし、表情を青くさせる。


「こっちだ!ついて来い!!」


エミリアの手を乱暴に掴むと、波長の層の弱い所を目掛けて走り出す。


「え!自分で走れるから!?」


急に手を引かれたことに驚きを顕にするエミリア。


「そんなことは危機を脱してから言え!!」


怒鳴りながらセウレヴィーラを見に来た見物人を掻き分け走り抜ける。


「邪魔だ!どけぇ!!」


宿への襲撃からこちらを囲むように迫る波長にアッシュは違和感を抱いていた。


(クソ!!おかしい。この襲撃はファミリーによるものだ。何故居場所がバレた!?あの女(セウレヴィーラ)と戦って目立ったのは俺だけだ。宿に寄った時は監視の目はなかったはずだ)


流れていく景観をよそにアッシュは頭を高速で回転させる。


(バックスが裏切りやがったのか!?いやそれなら手が込みすぎているが・・・俺とエミリアの両方が狙いならどうだ?・・・・クソ、分からねぇ)


確実に迫る波長を漏らさず察知し大通りから、細い路地へと入る。

そしてその先の十字路でスキンヘッドの男を、出会い頭に飛び膝蹴りを確実に顎へと決め倒す。

そして着地と同時に驚くもう1人の男に対して右足のハイキックを見舞う。

しかし顎に命中する寸前に無理矢理差し入れた左腕によって防がれてしまう。

いくら波長によって相手の位置や精神状態がおおよそ分かっても、自分が動作に気を取られていれば、意味がない。

アッシュの予想よりも2人目の男は武道に長けていた。

黒い服に身を包んだ男の体格は180センチを超えており、これも波長では分からないことであった。

黒服男の右腕が伸びる。

体格差を活かし捕まえて壁や路面に叩きつける気らしい。

男の腕をヒラリと躱しアッシュは懐へ入る。

左のボディブローを入れ、下がった顎を掌底で決めるつもりだった。

しかし相手の腹筋は岩のように固く、黒服男は動じなかった。


(しまった!?)


そう思った時には右腕を掴まれていた。

男の凄まじい握力に握り込まれ右腕が悲鳴を上げる。


「ってぇな!クソが!!」


左腕で顔面を殴ろうとするも、それも防がれ掴まれてしまう。


「アッシュ!」


エミリアの悲鳴が聞こえる。

しかし、両腕を防がれた時点でアッシュの負けは濃厚だった。

波長を感じなくとも予想したとおり黒服男の額が迫ってくる。

防ぎようのない頭突きをアッシュは目を閉じ身構えた。


「ぐるぐるパ~~ンチ」


細い路地ギリギリ入る横に広い体格の男が、振り回した両腕を黒服の男の後頭部に炸裂させた。

自分よりも体重のある男の攻撃を後頭部に受け、流石の黒服男も白目を剥き倒れる。


「おい、小僧偶然だな。これ以上状況を悪化させたくなければ、大人しく付いてこい!」

恰幅のある男の後ろから現れたのは大柄の男ーーーディリードの家の前アッシュと戦った凸凹兄弟であった。

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