第6話喧嘩
大柄な男はアッシュに肉薄すると、右腕を大きく振りかぶってから拳を突き出す。
アッシュは一瞬早く後方に飛び回避する。
男の拳は空を切る。
しかし、その反動を利用し体ごとアッシュにタックルしようとする。
男とアッシュの体格差は20センチを超えている。
まともに受けたらそく失神してしまいそうだ。
かわされることを見越した2段構えの攻撃。
しかしそれすらも飛び退いたアッシュには届かなかった。
大柄な男はタックルすら避けられる位置にアッシュが下がっているとは思っておらず、蹈鞴(たたら)を踏む。
バランスを崩した時間は、瞬きする程度の短い間だったことだろう。
しかし、男のいる位置とアッシュのいる位置が悪かった。
予め男が来る位置が分かっていたかのように飛び退って用意していたアッシュは、右足のハイキックを顔面に叩き込む。
「があ!!」
カウンター気味に入った右足は、綺麗に顎を捉え瞬時に男の脳を揺らす。
大柄な男は糸が切れたように膝を折り仰向けに倒れた。
口からは泡が漏れていた。
倒れた男を『あにぃ』と読んでいた横に大きな男は、一連の様子を見て前のめりになっていた姿勢を戻す。
まさか大柄な男が倒されるとは思っておらず、その顔は驚愕した様子だ。
「おめぇ、ただもんじゃねぇな!あにぃをたおしやがって、ゆるさねぇぞ!!」
咆哮するように叫ぶと両腕をブンブン振りながら走ってくる。
その動作はただのぐるぐるパンチ。
にもかかわらず、巨体が迫ってくる様はまるで巨大な岩が転がり来る迫力がある。
常人ならば腰が引けて動けなくなっていたかもしれない。
アッシュは横に大きな男の拳が当たる直前の距離に詰められても動かなかった。
横に大柄な男はぶつかることを確信しニヤリと歯を見せた。
「おれのこうげきをうけて、たってたやつはいないぞ!」
「笑ってる余裕なんかお前にはねぇぞ」
男には確かにそう聞こえた。
しかしアッシュの姿は目の前から消えている。
アッシュは迫りくる男の腕を上体を前進しながら屈め躱す。
そして重心の乗った左足ではなく、浮いている右足をアッシュの右足が払う。
「うお!?」
男はつんのめるようにバランスを崩し倒れようとする。
その男の後頭部に対し、払い終わった後の右足を筆が走るような滑らかさで頭上にかかげると、その足を倒れゆく男の後頭部へと見舞う。
顔から舗装のされていない地面に叩きつけられた男は、ピクリともせず大の字になった。
「ふぅ、あんたらにはわりぃがディリードと俺は共闘関係なんでね。あいつに寄ってくる虫は追い払う決まりなんだ」
聞いていない男たちに呟きアッシュは踵を返した。
汗一つかいていない涼しい顔からは隙きのない厳しい顔がうかがえた。
その様子を3階の自室の窓からディリードは静かに見ていた。
去っていくアッシュを目で負えなくなると、真剣な眼差しからふっと力が抜ける。
その感情のない表情からは何も窺うことはできなかった。
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