第21話ナックル ディリード モブ兄弟
大広間に残されたサリエリファミリーのメンバーは連絡を待ちつつも作戦を考えていた。
「グリム、メノウが何者かにやられ、アッシュとか言う君の友人と一緒にエミリア嬢が拐われた訳だが、何か思うことはあるかい?」
スーツ姿にメガネを掛けた男がディリードに質問する。
サイドロングの髪は艶があり、一筋左目に垂れる前髪が色っぽさを出している。
綺麗な鼻筋に薄い唇、鋭い目つきに金属のナイロール(別名ハーフリム)フレームは良く似合っていた。
彼の名前はナックルと言った。
その暴力的な響きのする言葉とは違い、知性と品格を持ち合わせた人物であった。
一見するとどこかの執事にと間違うことだろう。
何を隠そう彼はサリエリとは友人兼部下であり、教養と規律を部下に教える教育担当であった。
サリエリとはもともとただの幼い頃からの友人であった。
夢は教師となり貧困街の識字率(しきじりつ)を高め子どもたちの未来を明るくしたいという、野望があった。
しかし、どこまでも人に甘くそして不器用な友人が、ドンとしてサリエリファミリーを背負えるとは思えず、右腕になることを決めたのだった。
そこには穏健派なサリエリファミリーが崩壊することで、貧困街の治安がますます悪くなくことを危惧した行動でもあった。
因みにサリエリファミリーは世襲制であり、現サリエリは嫡男だった。
ディリードは”はい”と短く答え一礼する。
「恐らくカポーニファミリーが関わっているかと思います」
「根拠は?」
「アッシュに面識がありメノウを退ける人物に心当たりがあります。私の家を襲撃しようとした者と同一人物かと」
「その者がカポーニファミリーと確信があると?」
「私を襲撃しようとした者たちは2人。縦と横に図体の大きな体、そして右上腕にCのタテゥーがありました。その者たちはその時はアッシュにやられましたが接点ができたと見るべきかと」
「カポーニファミリーの中でも好戦家で知られるモブ兄弟の可能性が高いということか。しかし、モブ兄弟を退けるとはアッシュとかいう子供も随分と腕の立つやつだな」
素直に関心するナックル。
ディリードの知り合いとして取り込もうと考えているのか、それとも厄介な相手として敵視しているのか、表情からは窺うことができない。
「差し出がましいかも知れませんが、アッシュは見方にはなりません」
キッパリとディリードが言い切る。
先程からナックル相手に恐れることもなく簡潔に感情のこもらない声で話す彼は、アッシュと一緒にいる時とはまるで別人であった。
アッシュには黙っていたが彼の家庭教師先はサリエリファミリーであった。
博識で教えるのが上手いと評判だった彼はナックルの御眼鏡にかない、教育係の補助をしていたのだった。
家を借りることができたのも、サリエリファミリーの斡旋とナックルがディリードの働きに適正な賃金を与えたお陰であった。
彼が今回サリエリファミリーに力を貸したのは偶然だった。
エミリアに面識はなくドンが「占い師」を頼っていることは知らなかった。
しかし、突如その占い師が姿を隠したタイミングと、アッシュの知り合いであるバックスからアッシュの依頼内容を聞いた時に閃くものがあった。
彼は遂に自分の野望を行動に移すべきだと判断したのだった。
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