第4話友人 ディリード
アッシュは市場を後にし5つある通路の1つへと歩を進める。
行は南側の通路を通り帰りは西北側にある通路を選ぶ。
どちらも日の光が届きにくい貧民街へと続く道だった。
その通路半ばにアッシュと同年齢くらいの子供が立っていた。
「今日の収穫は何?」
シルバーの髪はボブカットに整えてあり、目は糸のように細い。
丸メガネを掛け少し口をほころばせた柔和な表情は、どこか利発そうな印象を与える。
服装もアッシュと違いブーツは光沢があり、羽織っている純白のローブには汚れが全くなかった。
髪型と相まって一見すると男性か女性か判断付かない中性的な顔立ちをしている。
「ディリードか。今日のはこれだ」
アッシュは左手の腸詰めを戦利品のようにかかげて見せる。
アッシュのその表情には険しさはなく、悪戯を成功させた年相応の幼さがあった。
「腸詰めか。今日は肉の気分だったのね。ちょっと遠くから見ていたけど、お前の盗む才能は本物だな。僕にはいつ盗ったのか全然分からなかったよ」
関心したような呆れたような顔でディリードはアッシュの横に並び貧民外への道を進む。
「あえて店主に腸詰めを触っている右腕を注意させるんだよ。あの店主は俺の左手にも注意していたようだが、その一瞬は右手にして目がいかないからな。その隙きにローブで隠れている垂れた腸詰めを左手でもぎ取るんだ。後は左腕のローブの中に隠しておけばいいって訳よ」
悪い笑みを隠そうともせず盗みの方法を自慢気に説明する。
「その方法は何回も聞いたよ。僕が理解できないのは何で右腕を店主に指摘させることができるのかってことだよ。あまりにも不審な動きなら立ち去ろうとした時に、ローブを脱げって言われても可笑しくないだろ?」
出来の悪い生徒に同じことを何度も説明する教師のように、棘のある調子でディリードは言う。
ただ、この場合の両者の立場はアッシュが教師役ではあるが。
「だ・か・ら!それは店主から出てる波長みたいなものを感じればいいんだって!あの時は他の客二人の波長が弱まってたから、俺が少し右手に波長を強く出せば店主は反応するしかないからな。釣り糸の餌に食いつく魚と一緒だよ。ハッハッハッ!」
馬鹿な店主だったぜと付け加えアッシュは笑い出す。
「~~~~~~。このやり取りも毎度のことだが、僕には【波長】が全然分からないよ!もっと分かりやすく説明してくれよ。・・・まぁ、アッシュの頭にそれを望んでもしかたがないけどね」
ため息混じりにやれやれと呆れる。
その仕草と発言にカチンときたアッシュはすかさず言い返す。
「そんなに細い目してるから見逃すんだろ!カッと見開いて俺の技を見てみろよ」
「人が気にしてる目のことを言うな!!これでも精一杯開けてるんだぞ!それに盗むことを【技】なんて高尚な言い方するなよな!」
「なんだやっぱり気にしてたのか。悪いなデリケートな問題に踏み込んじまって。それとこれで2年も食いつないでるんだから、俺のは【技】の領域にまでいってんだよ!」
「お前との付き合いも2年なんだから僕が目を気にしているのは承知のことだろ!アッシュは正確も悪いんだから」
「おう!お前と違って利口じゃないからな。正確も悪くならないとここじゃやってけねぇの」
「自慢気に言うことじゃないだろ!!」
その反論にアッシュはハッハッハと大声で気持ちよく笑った。
いつもは冷静で貧民街で生活をしているにもかかわらず、頭の良さを活かし家庭教師をしているディリードだが、アッシュといると口論ばかりしてしまう。
そして大半の時間を一人で過ごしているアッシュは、ディリードといる時だけ口数が増し眉間のシワを緩めて笑うことができるのであった。
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