第17話セウレヴィーラとは

「私に関して皆間違った考えを持っているわ!」


セウレヴィーラの結婚相手を探す発言で心底馬鹿らしく感じていたアッシュに対して、彼女は言葉を続ける。

アッシュの内心を敏感にキャッチしたのだろう。


「私は元々ただの辺境の村の出身よ。偶然村に魔獣が襲ってきてそれを退治しただけなの。別になりたくてあんな所(魔獣対策本部)にいた訳じゃわ。たまたま剣に天賦の才があっただけ!そして火を操る能力に目覚めただけよ!」


「お前、それ嫌味にしか聞こえないぞ」


話す内に複雑な感情が湧いてきたのか語尾が強くして話すセウレヴィーラ。

呆れ気味のアッシュはいつもの口調を忘れツッコミを入れてしまう。


「私の苦労があなたに分かる!?村から追い出されるようにしてあんな場所(魔獣対策本部)に行かされたのよ!本当は畑作業と牛たちの面倒を見ていたかったのに・・・・。母から料理も教わりたかったのに・・・。1人娘の私がいなくなったら、父は自分の土地を売っちゃうし!あの土地を買い戻すのにどれだけ頑張ったことか!!やっと買い戻したと思ったら、今度はこんな体質(火を操る)になっちゃったのよ!!もう村での生活も諦めるしかないわ!!だからせめて伴侶くらいは、理想の人を見つけるの!!そこに手段は選ばないわ!」


「そ、そうか。それは大変だったな」


ざわざわと周りの通行人が遠くから見物している。

既に大事になっていることにアッシュは舌打ちをしたくなる。

だからと言ってこいつ(セウレヴィーラ)を落ち着かせなければ、もっと状況が悪化することが容易に想像できてしまう。

それほど彼女の波長は乱れていた。


「お前に理想があるのならそれを追い求めることは、別に悪いことじゃねぇよ。問題は周りに迷惑を掛けすぎなければよ。これからはもう少し大人しく相手を探すんだな」


アッシュは自分でも気持ちの悪いほど真っ当なことを言った。

そうすることで早くこの場から立ち去りたかった。


「ふふふふ、今度からそうするわね」


微笑を口に宿し急に落ち着いた口調に戻るセウレヴィーラ。

嫌な予感がした。


「・・・でもいいの。ズバリ言うわね!あなたは100点満点中の89点よ。今まで会った人の中の最高得点。まだまだ体術は甘いけど、あなたの能力は私とうまくやっていけると思うの。そこが高得点のポイントね。それとその服装はダメね。もう少し清潔なものを着て頂戴。髪もちゃんと洗ってね・・・・でも、あなたの目は気に入ったわ。その険しい表情は素敵よ。厳しい現実に打ち負けない意思を感じるわ。まるで私の父のように村の男の目をしているわ。あなたとならひょっとしたら村でも生活も夢じゃなさそうね!」


早口に説明口調で勝手に人のことを評価しだすセウレヴィーラ。


「・・・・・・」


何度目かの呆気に取られるアッシュ。


「ふ、ふざけんな!!なんで勝手に決めつけられねぇといけねぇんだ!!バカバカしい!俺には俺の生きる目的があるんだ!」


流石のアッシュも爆発する。


「あら?そうなの?それなら私も力を貸すわよ。さっさと目的を話しなさい」


「誰が言うか!自分の力で成し遂げるからいいんじゃねぇか!」


正直、彼女の申し出はありがたかった。しかし、売り言葉に買い言葉で反発してしまう。

「やっぱりいい男ね、そうじゃないといけないわ!」


「~~~~~。俺は用事があるんだもう行けせてもらうぜ!」


これではいつまで経っても話が終わらないと思い切り上げようとする。


「ふふふふ、もう忘れちゃったの?手段は選ばないって。あなたを逃がす訳ないでしょ」

不気味さと強い意思を感じさせる響きにアッシュは額から汗が流れる。


「・・・・もし逃げると言うのなら・・・あなたが連れているあの娘を・・・」


「クソ!分かったよ!言うとおりにーーー」


セウレヴィーラとの力の差は悔しいが歴然としている。

短い付き合いだが、エミリアの事情を聞いてどこか自分と似た境遇の彼女に、情が湧いてしまっている。

これまでの自分を否定することだが、ここは屈してしまうしかないとアッシュは思った


「狙ってる奴らをさっさと片付けてしまいましょう」


「・・・・・・・。はぁ!?」


ポンと両手で叩いて、あっけらかんとセウレヴィーラが言う。

一瞬理解が追いつかず思わず盛大に声が漏れてしまった。


「まさか殺すと思ったの?あなたから嫌われるようなことを私がする訳ないでしょ。あなたに何か目的があるのなら、一緒に付いて行くだけよ。私は足手まといならないから問題ないでしょ?」


「・・・・・」


理屈の通った話に反論ができない。


(クソ!合理的なこと言いやがって。俺は独りが好きなんだよ!)


「ま・さ・か、1人でやるからとか言わないわよね~。言ったところで私は実行するけど」


渾身の笑顔でこちらの反撃の芽を摘んでいく。


「・・・・・。そんなこと言わねぇよ。ただな・・・・お前さっき料理がどうのこうの言ってたけど、美味しい料理を作ってくれるんだろうな!!無理矢理付いてくるのなら俺は期待するぜ!それに俺はお前に対してまだ何の判断材料もないからな!!」


ズドン!


「ぐふぅ!!」


破れかぶれで放ったセリフがセウレヴィーラの胸に衝撃を与える。


「・・因みにあなたの好きな料理を・・・聞かせてもらえるかしら?」


ゴクリと喉をならし緊張気味に質問する。

ここに来て立場は逆転していた。


「スクランブルエッグだ。なるべくふわふわのな」


(!?しまった!もっと難しそうなのにしておけば良かった)


思いの外セウレヴィーラが動揺していることに驚き、素直に答えてしまったことをアッシュは悔いた。


「・・・・そう」


(クソ!流石に作れるか)


「今日はこれで引き上げるわ。それに当初の予定ではそのつもりだったから・・・」


(途中から完全に付いて来るつもりだったくせによ)


口に裂けてもそんなことは言えないがアッシュは内心毒ついた。


「今度会うまでにふわふわのスクランブルエッグを作れるようになっておくわ!それじゃあ」


くるりと軽快な足取りで背を向けるとセウレヴィーラは去って行った。

嵐のような彼女との時間はアッシュを酷く消耗させた。

ただし、スクランブルエッグという奥の深い卵料理を言ったおかげで、しばらくの間

セウレヴィーラの目撃情報は途絶えることになるのであった。

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