開演

*あかり視点*


横にいる蘭が頭を撫でてくれて、私達の正面に立っていた彼女は困った顔をしている。

「今日、後輩が知り合いがいるから。って連れてきてくれて…本当は控え室とかにも入れると思わなくて、席もどの辺とか聞かされてないから、行くよ!って前もって言うのもな。って思って呟いたりしなかったんです。なんか、不安にさせちゃってごめんなさい」

言い掛かりのような私の発言に、座る私に視線をあわせるように膝を床につき謝ってくれる彼女を見つめた。

渡されたティッシュが涙とファンデーションでくしゃくしゃになっている。

「私はHoneyが、あかりちゃんが神推しだから。あかりちゃんのステージ見に来ました」

スンスンと鼻がまだ鳴る。

少し照れたように笑う彼女がいう言葉に自然に笑ってしまった。

隣の蘭が「私も推してよー!」とふざけたように言うのも可笑しい。

3人でくすくすと笑いあい、彼女の連れがこちらにきて彼女を呼ぶ。

「じ、じゃあ、また!お邪魔しちゃってごめんなさい!」

彼女は頭を下げ私達の元から離れていった。


「…今日も頑張ろうね」

「うん!!」


見ていてくれる人がいるから。

応援してくれた人がいるから。


開演を告げる放送と室内にいてもわかるほどの歓声。

トップを飾るのは関西で有名なご当地アイドルグループだ。


少し崩れてしまった化粧を直し、差し入れられたスポーツドリンクを口にする。

ほんのり甘い。

広い会場内で彼女を見つけられるだろうか。

どこに居たって見つける。大丈夫。

自分達の番になって、蘭と繋ぐ手に力が入る。

いつものライブハウスとは歓声が桁違いに大きい。


「あかり、行こう…!」

「うん!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る