姉は強い(物理的に)

ハハハッと笑っている祖父に、コラ!やり過ぎだよ!と配膳しながら怒っている祖母。

言葉通り、私の尻に敷かれている弟。

「ねぇ、お姉ちゃん、ユウにお願いがあるんだよぉ」

とびきりの猫撫で声で潰れている弟に話し掛ける。反応はない。

「今週末、朝7時にうちに来て小山の駅まで送って」

「な!な、ん、で、お、れ、がっ!!」

グヌヌッと踏ん張って私ごと持ち上げて立ち上がろうとする弟の上に通せんぼしていたキミが乗る。

重りは成人女性2人分。

グェッと蛙みたいな声を出して弟が潰れた。

「優しいお姉ちゃんがもう1回お願いするよぉ。今週末ウチに7時に来て小山の駅まで送って」

「お、お…重い…ど、どけよ、デブども…!」

「キミやっておしまいっ!」

「アイアイサー!」

"お願い"を聞いてくれない挙句に暴言まで吐いた弟の着ていたシャツをずり上げ露出した脇腹をキミがこちょこちょとくすぐりだす。

「ひっ、やめっ…ハハッ、やめ、ハハひぃ…!」

ビクッビクッと身を捩りくすぐられている弟に逃げられないように気を付けながら私もくすぐりに参加する。

言葉にならない悲鳴が絶えず弟からでていた。


「お願い、聞いてくれる?」

10分くらいキミとくすぐっていただろうか。

最初こそ笑い声と悲鳴をあげていた弟だが、徐々にビクビクと体を震わせるだけで抵抗しなくなった。

尻の周りを中心にズボンの色が濃くなっているし、顔を覗き込めば白眼を剥いている。

薄い本で有名なアヘ顔ってやつだ。

「……わ…わか、った…」

笑いすぎてヒューヒューと変な呼吸をしている弟から"お願い"を了承する言葉を得る。


この弟、思春期の多感な時期に私に散々イジメられたおかげで私の事が大嫌いなのだ。

小さな頃からボコボコに私にやられていた影響なのか、私の身長を抜かした辺りから妙に口答えをしてくるようになった。

私はその頃、成人してるし弟はデカいしと別に腕っ節で勝つ気もなかったが、くだらない事で兄弟喧嘩に発展した時に弟に肩パンされ考え方を変えた。

肩パンされたのを皮切りに祖父直伝の護身術をお見舞し、その時の喧嘩は弟が後に姉のせいで女性恐怖症なんだと祖母に相談するくらいにまで拳で痛め付けた。

嗚呼、馬鹿な弟。

祖父は空手の師範代、戦争を生き抜いてきた祖父の教えは「女でも自分の身は自分で護れ」なのだから。


口答えをしても結局"お願い"を聞いてくれるのだから最初からわかったと言っておけばいいのに。

倒れている弟の上からおりてキミと一緒に食卓に戻る。

炊き込みご飯に筑前煮、鮭の味噌焼きとナスの煮びたし。

スーパー惣菜じゃない和食にキャア♡とキミが黄色い歓声をあげた。

美味しい、美味しい!とよく食べるキミを祖父母は異常に気に入り可愛がっている。

前に真剣な顔で祖母に、キミに身寄りが無いなら弟に嫁がせてはどうか。と言われてたほどだ。


とにかく、遠征の電車に乗るまでの"足"は確保出来た。

あとは週末まで楽しみ待つだけだ!

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