ライブ

「見ましょう!地下アイドル!」

ときゅうちゃんに言われた言葉に自然と口が開いた。

そんなに簡単に見れるものなのか?!

とか、

チケットも何も持ってないけど!!

とか、言いたいことが山ほどあったが驚きで喉が乾いて言いたいことは一つも声にはならない。

外と中を隔てる扉が開き中へとはいれば、それほど広くないロビーには数人の男性客に、何個かのスタンド花。

CDとグッズの物販をしてる女の子。

全てが物珍しくてキョロキョロとしていれば、きゅうちゃんに手を引かれ更に奥へと連れてかれた。


-うぉおぉぉぉぉっ!!!


古びた映画館の扉のような重たい扉が開いた瞬間、熱量に鳥肌が立った。

小さなライブハウスの中が揺れてるのではないかと思う程の歓声。

ムワッと湿度を帯びた空気。

中でひしめき合う人の多さに目眩すら覚えた。

「す、すごい…」

丁度、私達が中に入った時は曲と曲の間でステージ上では色とりどりの照明の中でヒラヒラと可愛らしいフリルとリボンのついた衣装を着た女の子2人が息を切らし観客へと手を振っている。

汗すらも煌めいて見えた。

『まだまだ行くよおおおおォォっ!!』

『みんなついてきてねーー!!!』

彼女たちの掛け声に応える雄叫びに肩が飛び上がる。

大音量で流れ出したのは可愛らしい感じの彼女達にはちょっと似合わないロックな曲。

ドンドンと腹の奥に響くドラムの音に自然と緊張は解れていく。


ハードな曲に合わせてステージ上で踊る彼女たち。

キラキラの古めかしいミラーボールも、薄暗い中で彼女たちの魅力を更に引き出す要素になっているのだろう。

立ち見だから靴擦れして浮腫んだ足は痛くてしょうがないのに更によく見えないものかとチビな私が精一杯背伸びをする。


心地よい耳鳴りを残して曲が終われば、まったりとした彼女たちのMCがはじまり次の曲へと会場の空気が変った。

ロックな曲の時よりも暖色系に落ち着いた照明。

お互いの背中を合わせてバラードを歌う彼女たち。

彼女たちの優しい歌声になんだか無性に泣きたいような気持ちになった。

「どうです?地下アイドルのステージ…って、え?!」

きゅうちゃんがドヤ顔で私の方を見てビクリと肩を揺らし私の顔を2度見した。

ボロボロと涙が流れて止まらない私。

ファンデーションは崩れて、アイライナーが溶けて頬に黒い筋ができていた。

我ながらひどい顔だったと思う。

「なんか…すごくて…」

鞄からハンカチを取りたくてもステージから目を離したくないけど涙は拭いたくて、乱暴に手のひらで自分の顔を擦った。

会場の熱量にあてられて頬は熱い。

足の痛みは既に頭の片隅にもない。

ドキドキと耳に移動してきたんじゃないかってほどに心臓の音がうるさかった。

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