推しからの愛が強い件

しゃのあーる

このお話のはじまり

-地下アイドル


彼女たちは自身をセルフプロデュースしてライブを行い観客に夢を魅せる商売である。


メディアでも活躍する子、ライブハウスを埋め尽くす程にファンを抱えている子、ちょっと変わった一発芸を持ってる子、リストカットの痕がある子、スキャンダルを恐れない自由奔放な子…と数え切れない少女達が切磋琢磨し歌い踊り、観客にキラキラとした姿をみせてくれる。


地下アイドルにハマったきっかけはなんだっただろうか…。


東京にお客様と遊びに行った時に「最近、地下アイドルが熱いんだってー。フォロワーさんが呟いてた」という私の発言がきっかけだったと思う。


私の職業は田舎のキャバ嬢である。

6月の初夏の暑さに慣れないお洒落なパンプス。

田舎では乗り慣れない電車移動にヘトヘトになりながらお客様と入った喫茶店でキンキンに冷えたコーヒーを飲みながらSNSで仕入れた情報を会話のネタにした。

「地下アイドルですか?……んー。ちょっとお待ちを」

お客様こと、きゅうちゃんは私の話を聞くなりどこかに電話をしだした。

汗をかいてた体に冷たい飲み物が染み渡るような心地のいい感覚にふぅ、とやっと一息ついて正面で電話をしているきゅうちゃんを見る。

仕事関係の電話かな。と思っていれば早々と電話を切り上げたきゅうちゃんと目が合った。

「じゃ。行きますか!ライブ!」

「…へ?」

ニッコリといい笑顔で言われた言葉に口がへの字に曲がる。

…なんだって?ライブ?今から?なんの?

発言者のきゅうちゃんは特に詳しい事を教えるでもなく自分の分のアイスコーヒーを飲み干すと先に席を立ってしまった。

慌てて私も氷で薄くなったコーヒーを飲んで後を追う。


既に会計を済ませて店舗の外でタクシーを止めるきゅうちゃんとタクシーに乗り込めば一体どこに行くのか?とやっと聞く事が出来た。

タクシーの行先は秋葉原。

私もきゅうちゃんもアニメ好きで所謂、オタクである。

しかし、タクシーが向かう先はいつも遊び場にしているメインストリートではなく細く入り組んだあまり立ち寄らない場所。

夕方の薄暗い路地にぽつんと置いてある立て看板の前に降ろされた。

「ここって…」

地下へと伸びる薄暗い蛍光灯の階段。

置いてある立て看板はブラックボードで、可愛らしいイラストに若い女子特有の丸文字。

下から聞こえる歓声と特徴的な音楽。

きゅうちゃんの後に続いて靴擦れして痛い足をびっこ引いて階段を降りる。

簡素な扉の前で振り返ったきゅうちゃんが私に今日1番のいい笑顔を見せた。


「見ましょう!地下アイドル!」

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