悲しい笑顔

両頬にマシュマロのような感触を楽しんでいたが、身体を解放してくれた蘭ちゃんから名残惜しくも離れる事にした。

私は変態だが、変質者ではないからセクハラはしない。

「…ええっと、なんか凄くしんどそうにしてたけど何かあったんですか?大丈夫?」

タバコを喫煙スペースの灰皿に捩じ込んでいる蘭ちゃんに先程の辛そうな表情が気になり聞いてしまった。

心の中ではプライベートな事に踏み込んでゴメン!と謝りながらも蘭ちゃんの整った横顔を見る。

「あー…ちょっと、嫌なお仕事…を押し付けられて…?やらされて?あかりが今頑張ってるんだけど…しんどいなぁ…って…」

言葉を選びながら答えてくれた蘭ちゃんに違和感を感じて首を傾げていれば、こちらを見てヘラッと笑い「うちら崖っぷちだからさ…」と言われた。

「こんな事、言ってもしょうがないよね。ごめんなさい。」

綺麗なお顔で悲しい悲しい表情で言われた言葉が酔いをどんどん冷ましていく。


ライブハウスで見る楽しそうに笑い、のんびりと喋る蘭ちゃんはどこにいった?

「…そのお仕事って…誰に言われるんですか…?」

ゴクリと生唾を飲み込んで、震える手を握り締めて尋ねた。

踏み込んじゃダメだ、夢の世界を壊すな、って頭の中でグルグルと思考が回っている。

「うちの事務所だよ、大きいスポンサー付けてこいって」

ああ、嫌だ。聞かなきゃ良かった…。

諦めてる様子の蘭ちゃんがタバコに火を付ける。

そんな芸能界の闇!みたいなのはテレビとか週刊誌だけの噂話にしといてくれよ。本当に。

「今回好みはあかりだったみたいでさ。あたしは眼中に無かったみたい」

だから、逃げてきた。と。

なんてこった…。

「…ここでの食事が終わったら…?」

「さぁ…?大人なんだから…ね」

わかるでしょ?と言わなくても続いた笑顔に横にあった壁を思わず殴ってしまった。

ダンッという鈍い音にジンジンと痛む拳と驚きを目を見開いてる蘭ちゃん。


「そいつ、なんて奴なの?」


業界の闇に首突っ込む気もないけれど、推しの貞操くらいは守りたいという私のエゴ。

推しには健やかに笑ってて欲しい。

それだけなんだ。

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