第38話 婚姻届に証人の署名をもらった―一緒に暮らすと歳の差が縮まる?

週末に二人で区役所へ婚姻届を提出しに行った。婚姻届けには証人が必要であったが、後輩の春野君とマンションの管理人さんにお願いした。


春野君は喜んで証人になってくれた。


「川田さんが最近気乗りしていない訳がようやく分かりました。そりゃ、そんな若い姪御さんと同居していたら、彼女が気になって僕と一緒に遊びになんか行っていられませんよね」


「それもそうなんだけど、感が鋭いというか、匂いに敏感というか、最後に一緒に行ったときは、カマをかけられてばれそうになった。だからこの前を最後にもうこの会は解散しないかと提案したんだ」


「実は僕も彼女にプロポーズをしたところなんです」


「結婚を考えている彼女がいると聞いていたけど、それはよかったね。もちろんOKはもらった?」


「ようやくもらいました」


「ようやく? 春野君はイケメンだし、仕事もできるし、人柄もいいし、超有名国立大学も出ているし、文句なしじゃないか。断る娘はいないと思うけどね」


「歳が離れているんです」


「いくつ?」


「12歳」


「僕が勝っている!」


「川田さんとは元々勝負していませんから。でも若い娘が良くて」


「そういえば、春野君は若い娘ばかり選んで指名していたね。それも可愛い娘ばかりだった」


「僕はロリコンなんです」


「ロリコン? 誰だって若い娘がいいに決まっているだろう。僕も若い義理の姪に引かれたから、そんなに気にすることではないと思うけどね」


「僕は小学生のころ活発な女の子が周りに大勢いて随分からかわれていました。だから同年代の女の子には引け目を感じて話すこともできなかったんです」


「大人になってもか?」


「中学、高校、大学と同じでした。どうも同年代の女子には引け目を感じてダメなんです。今も治りません」


「信じられない。会社ではしっかり議論したりしているようだけど」


「仕事と割り切っているからです。プライベートになると全くだめです」


「そうなんだ」


「ソープへ行くようになったのは本社へ異動になる少し前で20代の終わりごろからです。これじゃあいけないと勇気を出して行ってみました」


「それで」


「その時まで僕は経験がありませんでしたが、相手をしてくれた娘が随分若くて20歳くらいだったと思いますが、親切にしてくれて、おしゃべりもうまくできて、こんないいところがあったんだと、とても嬉しかったんです」


「よかったじゃないか」


「それで通うようになりました。徐々に女の子に対して自信がついてきました。でも同年代の女性はそれでもだめです」


「そういえば僕もロリコンかもしれない。同年代の女性にはちょっと嫌な思い出があってね。今の義理の姪とは初めは父親代わりのつもりで面倒をみていたけど、徐々に自分のものにしたいという気持ちが強くなった。歳が離れているから自分の思いどおりにできるという優越感というか、安心感があるのかもしれないね」


「僕も歳が離れているとそういった安心感があるように思います」


「まあ、いいじゃないか。お互いにそれで良ければ」


「川田さんには僕と同じにおいというと失礼な言い方になりますが、同じ寂しさを感じましたので、お誘いしたのです」


「前にも言ったとおり、ありがたかった。僕も随分それで癒された」


「ところで、しばらくは休会ということにしませんか?」


「休会? それでもいいけど、再開はないと思うけどね」


「僕もですが、川田さんにはこれからも個人的に相談することがありそうなので、そうしておいてください」


◆ ◆ ◆

管理人さんも喜んで証人になってくれた。


管理人さんとは僕がマンションの役員をしているときに親しくなった。マンションの空きが出た駐車場の希望者への割り当て方法で、ずっと待っている人と新たに希望した人の扱いをどうするかでもめていた。単に抽選にするのは落選して待っている人に不公平だというのだ。また、申請順にすると新たな希望者はずっと待たなければならない。その解決方法を考えてあげて隋分感謝された。


駐車場に空きが出来ると希望者のくじ引きで決めるのだが、落選した人は次回ではくじを2票引けることにする。それでも落ちたら次々回は3票引けることにする。落選するごとに引ける票数が増えるので当選確率が上がる。新たに抽選に参加する人は1票しか引けない。でも落選すると次回は2票引ける。参加者に必要な票数を合計して1票に当選のマークを付けて引いていけばいい。


我ながら良いアイディアだと思った。それ以来、抽選でもめたことがなくなったという。


「お二人で挨拶に見えたあの時にこうなると思っていました」


「どうしてですか?」


「お嬢さんが川田さんを見る目ですぐに分かりました。歳が離れていましたが、あなたのことが大好きでお嫁さんになりたい、そういう目をしていました。そして妻ですと言ったでしょう。突然のことで驚きましたが、本心なんだと思いました」


「あんなことを言うとは思わなくて驚いてしまいました」


「でもあのときはそれを否定もされなかった」


「はい」


「あのとき川田さんもそう思っているなと感じました」


「そうかもしません。悪い気はしなかったですから。でも歳の差があり過ぎるのでそうはならないだろうと思っていました」


「私と家内とは15歳も歳が離れています。でもこの歳になると年齢差を感じることはありません。一緒に暮らしていると、歳の差が縮まっていくんですよ。そういうものです。健康に気を付けてお互いに長生きすればいいんです」


いい話を聞かせてもらった。「一緒に暮らしていると、歳の差が縮まる」か、そうかもしれない。僕も久恵ちゃんと一緒に生活して随分若返ったような気がする。


春野君にも教えてやろう。いや、やめておいた方がよいと思う。

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