第29話 ノロウイルスとばっちり事件―なんで僕が感染するの?
今日、久恵ちゃんは遅番だったので、マンションへ帰ってきたのは11時を過ぎていた。明日から3日間は自宅待機で家にいるという。
理由を聞くと立食パーティーで会場に料理を運んで行った時に、嘔吐したお客さんがいて介抱したからだという。嘔吐はノロウイルスによるものと疑われているので、コックの久恵ちゃんが感染した可能性があることから様子をみるためにということだった。
何もなければ良いがと思っていたが、久恵ちゃんには何もなかった。よい休養になったと喜んでいた。
それから2日目の朝、朝食の後で僕は激しい嘔吐に襲われた。すぐにトイレに駆け込んだ。朝起きた時から下痢していて体調がすぐれなかった。
「ひょっとするとノロウイルスに感染したかもしれません。今日は会社を休んでお医者さんに診てもらった方がいいと思う」
「そうする」
「近くの医院の方がいいです。それから行く前に電話をしてから」
ホテルで感染が分かった場合の対処法を聞いていたので教えてくれた。僕は9時になると会社に連絡して状況を伝えた。それから、近くの医院へ電話して診てもらいに行った。
診断の結果、おそらくノロウイルスに感染したためと言われた。2~3日で良くなるので、自宅で療養しているように言われた。それにノロウイルスには効果的な薬はないという。
ほかの原因の可能性も否定できないので、抗生物質と制吐剤を処方してくれた。下痢はそのうち治まるので、脱水症状が出ないように水分を補給するように言われた。
マンションに帰ると久恵ちゃんが嬉しそうに言った。
「ホテルに家族がノロウイルスに感染したようだと連絡したら、その家族が回復するまで自宅待機するように言われた」
「それは大変だ」
「パパを看病してあげられるからよかった」
確かに久恵ちゃんがそばにいてくれると何かと助かる。僕はすぐに部屋で寝かされた。トイレから出たら必ず手を良く洗うことを厳命された。
久恵ちゃんは自分に感染するのを予防するために使い捨ての手袋をしてトイレをはじめ家の中をくまなく漂白剤で消毒したという。
食事はマスクをした久恵ちゃんが部屋まで運んでくれた。その日は下痢が続いたので夕方まではポカリだけを飲んでいた。夕方には下痢が収まったので、夕食にはおじやを作ってくれた。
吐き気も制吐剤を服用しているためか治まっている。次の日は朝、昼、晩と食事ができた。でもお腹に優しいおかゆが主体の食事が続いた。
「これじゃあ、力も出ないし、回復しない」といったら、明日からは普通の食事にしてくれると言う。
3日目に僕はすっかり回復した。下痢、吐き気は全くない。明日から出社することにした。久恵ちゃんもホテルに連絡したら明日から出勤するように言われたとのことだった。
ようやくひと騒動終わった。幸い久恵ちゃんは発症しなかった。でもなぜ僕だけ感染したのだろう。感染しても発症しない人もいると聞いた。
でも休んでいた3日間、久恵ちゃんは僕に感染させたのを悪いと思って、据え膳下膳でつきっきりで一生懸命に看病してくれた。それはそれは幸せの日々だった。
ひとりだったらどうなったことか。ただ、ひとりだったらこのようなとばっちり感染はなかったと思う。
今回の感染騒動では、久恵ちゃんもゆっくりできてよい休養になったと思う。まあ、不幸中の幸いと思うしかない。
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