第12話 湯上り転倒事件―驚かしたら足を滑らせて転んだ!
気のせいかもしれないけど、このごろ久恵ちゃんが僕を挑発している気がしてならない。ここへきたころはお風呂に入ったら、浴室でパジャマまで着替えて出てきていた。
このごろは暑くなってきたせいもあるのかもしれないが、バスタオルを身体に巻いただけで、廊下を歩いて部屋に戻っているみたい。
リビングでテレビを見ていると、浴室から顔を出して僕が居ることを確認すると、浴室へもどってパジャマを着て出てきているみたいだ。僕が自分の部屋に居るとことが分かると、そのまま着替えしないで部屋に戻っているみたいだ。
昨日、自分の部屋に居てトイレに立ったら、バスタオルを身体に巻いただけの久恵ちゃんと出くわした。一瞬二人とも固まった。僕は目のやり場がない。でもじっと見ていたみたいだ。
「見ないで!」といってすぐに部屋に入っていった。
まあ、冷房の効いた部屋でゆっくり身体を拭いて身体が冷えてきてから着たいのは分かる。夏場は特にそうだ。僕も久恵ちゃんがリビングに居ないときはそうしている。
一度そういうことがあると、前よりも気を付けるものだが、久恵ちゃんは違っていた。僕がリビングにいても、バスタオルを巻いたままで、部屋に戻るようになった。
まあ、こちらとしては目のやり場がないとはいえ、目の保養になるので黙っている。後姿はすごく色っぽい。じっと見ていると、突然振り向いた。
「見ないで!」
そう言ったが、まるで見てくれと言わんばかりだった。すぐに目を伏せる。久恵ちゃんはそれを見届けると勝ち誇ったように悠々と部屋に戻っていった。
少しむっとしたが、部屋の前まで行って、ドアをノックして言った。
「ごめんね、見ないようにするから」
「気を付けてください」
それでも、だんだんエスカレートしてきた。時々、後ろを振り向いて僕の目線を確かめる。僕はすぐに目線をそらした。でも久恵ちゃんが向こうを向くとすぐに僕は目線を戻した。
油断した。もう一度後ろを振り向いてきた。
「見ないで!」
そう言うと、向こうを向いてバスタオルを両手で開いた。
僕は驚いて手に持っていた水割りのグラスを落としそうになった。久恵ちゃんはバスタオルを両手で開いたまま、悠々と歩いて行った。このシーンどこかであった。昔CMで見たような気がする。
すぐに部屋の前まで行って、ドアをノックして言う。
「あまり僕をからかわないでくれないか? 今度したら我慢できなくなって襲い掛かるかもしれないよ」
「見なきゃいいでしょう」
本音を言ったつもりだった。これ以上挑発されたら持たないかもしれない。しばらくの間は久恵ちゃんがお風呂に入ったら自分の部屋にいることにした。それなら見るようなこともないし、挑発にも合わない。
◆ ◆ ◆
金曜日の晩、僕が好きなアクション映画がテレビ放映される。自分の部屋のテレビは中型で迫力がないから、アクション映画放映の時にはいつもリビングの大型テレビで見ることにしている。久恵ちゃんはアクション映画を好まないので、お風呂に入った。
いつものようにお風呂からバスタオルを巻いて出てきたのが見えた。僕がテレビに夢中になっているのが気に入らなかったのか、そのまま冷蔵庫にペットボトルを取りにきた。僕の視線が久恵ちゃんに向かったのが分かると、向こうを向いてまた両手でバスタオルを開いた。
僕は「久恵ちゃん」と言って、立ち上がろうとした。それが分かると、久恵ちゃんは何を思ったのか、あわてて部屋へ戻ろうとした。
でも今回は手にペットボトルを持っていたのと、風呂上がりで足が濡れていた。すべってバランスを崩して浴室の前で転んだ。太ももが、お尻が露わになる。
僕は慌てて助け起こそうとソファーを立ち上がって久恵ちゃんのところへ行こうとした。どう思ったのか久恵ちゃんは慌てて廊下を這って部屋に向かっている。お尻が大事なところが丸見えだ。
僕が「大丈夫?」と言うのと久恵ちゃんが部屋に入ったのは同時だった。部屋の前まで行って、もう一度「大丈夫?」と声をかける。
「お尻は大丈夫だけど、足を捻ったみたい」
「見てあげる」
「ちょっと待って」
しばらくしてドアが開いた。パジャマを着た久恵ちゃんが座って足首をさすっている。
「ほら、言わないことじゃない。僕をからかうからだ」
「パパが本当に襲い掛かってくると思ったから慌てた」
「冗談に決まっているだろう。信用がないな」
触って動かした感じではそれほど重症でもなさそうだ。湿布薬を持ってきて足首に巻いてやった。歩くと痛いというが大丈夫だろう。
それから久恵ちゃんの挑発は全くなくなった訳ではないが控えめになった。あれ以上になると本当に襲い掛かってしまうかもしれない。
あんなに挑発しているのに、あの驚きよう。覚悟してそうしているのでもなさそうだ。その気持ちが測りかねる。
あの時は理性が完全に勝っていたが、ほんのわずか本心があったようにも思う。まあ、挑発が全くなくなると寂しいが、適度な挑発なら僕にとっては良い刺激だ。
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