第33話 お腹の上で眠りたい!―熟睡できなかった!

久恵ちゃんは少しずつだけど愛し合うことに慣れてきている。ただ、まだ痛みがあるようで、頃合いを見計らって「おしまい」ということにしている。


慣れてきたこともあり、そのあと話をするようになっている。これがピロートーク? 面白いことを言ってきた。


「パパ、お願いがあるの。パパの上で寝ていい?」


「上で?」


「お腹の上で」


「いいけど、どうして」


「私、小さい時に公園の芝生で父親が上向きに寝て、赤ちゃんをお腹の上で寝かせているのをみたことがあるの。私、父親がいなかったから、とてもうらやましく思ってみていたの。一度でいいからお腹の上で寝かせて」


「何度でもいいけど。久恵ちゃんは小柄で軽いから大丈夫だと思う」


「嬉しい。お願いします」


「じゃあ、パジャマを着てから上に載って、僕が膝を立てて脚を少し広げるから、久恵ちゃんはうつ伏せて、脚を開いて、膝の外側へ、両手は両脇へ、そうすると、落ちにくいと思うけど」


言うとおりに素直に従ってくれる。


「うん、安定して落ちにくい。顔は横向きね。パパの温もりを感じて、気持ちいい。重くない?」


「大丈夫そう。上から布団をかけるよ。おやすみ」


布団をかけると結構な重量になる。薄い布団に変えるべきだった。久恵ちゃんの腰骨と胸のふくらみを身体に感じる。あそこもなんか当たっている感じがする。そういえばこの感触、どこかであった。


あの花見の時のおんぶした感覚だ。あのときは背中に膨らみが二つ当たっていて、ずっとその感覚が背中に残っていた。今は胸にその感覚を感じている。


やってみると父親が赤ちゃんをお腹の上に載せる気持ちがよく分かる。ひよこひょこ動きまわる感じがたまらなく可愛いんだと思う。


急に重さを感じるようになった。寝息が聞こえるので、もう眠ったのかな? 顔を覗くと、口からよだれが! 可愛い! 抱いて寝ながら寝顔を見てみたいと思っていたけど、こんなに寝顔が近くで見られるなんて!


でもだんだん重く感じるようになってきた。眠る前は足と腕で身体を支えてくれていたので重さをそれほど感じなかったが、眠ると全体重がかかってくるみたいだ。苦しい。少し横を向いてみよう。


うまくずり落ちてくれるといいなと思いながら身体を傾ける。久恵ちゃんはずり落ちるのを避けるように無意識にしがみついてくる。これがまたたまらなく可愛い。でも顔がゆがんでいる。斜めを保ったままこの感触を楽しむことにしよう。


でもいいかげん疲れてきた。人間というものはせっかくいいことがあってもすぐにそのことに慣れてしまうものだ。我慢できなくなって横向きになった。久恵ちゃんがずり落ちた。重さから解放されてほっとした。


でも相変わらず久恵ちゃんは僕にしがみついている。心地よい疲労の中で僕は眠りに落ちた。


夜中に何回かお腹の上に乗られたような気がした。そのたびに横になってずり落としていたような気がする。


「おはよう」


久恵ちゃんがお腹の上に乗ってきたので目が覚めた。


「重くなかった?」


「少しね」


「朝、目が覚めたら横で寝ていた」


「夜中に落ちたんだね。急に楽になったような気がした」


「夜中に崖から滑り落ちる夢をみたの、必死でしがみついていたけど、落ちてしまった夢。気がついたらパパの横に落ちていた。それでまた乗って寝た」


「満足した?」


「気が済んだけど、なぜか寝足りない気がする。熟睡できなかったみたい。だからこれは気が向いた時だけにする」


そうしてくれ、僕もぐっすり眠れないから!

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