不幸な境遇に閉じ込められたお姫様と、そこに手を差し伸べる王子…という誰もが憧れるフォーマットに載せつつも、現代にも通じるようなお姫様の苦悩を急ぐことなく丁寧に積み上げていくことで、近い悩みを持つ人に訴えかけてきます。その丁寧さと、密やかに設計された作品構造が、終盤に待ち受けるカタルシスに向けた助走距離として機能しており、ついつい主人公に感情移入してしまう。そんな素敵な作品です。余談ですが、「慈鳥」というのを調べてみると、そういう意味だったんですね。存外に優しい別名があるものだ、と勉強になりました。
おそらくは害意など無い、もしかしたら愛情だとすら思っている周囲の振る舞いが主人公を蝕む様がリアルで鬱屈した思いに息苦しくなりました。そしてその抑圧からの解放!軽んじられる事に慣れ、褒められる事に居心地の悪さすら覚えていた彼女が、そうではなく意思を尊重された時にそれを「嬉しい」と感じることができたシーンが特に好きです。
ヒロインのきしむような悲しみが、喧伝しなくとも、重い靄のようにのしかかり染みてくる。悲しいことはもうないよ、って旅立たせてあげたくなり、彼女を引き止めるものの軽さにまた悲しくなる。彼女の門出は、夜明けではなく、ほっとする白夜のような。切ない物語でした。
視覚的な耽美さを感じるいい小説でした。
獣、姫と騎士、バトル展開、バディ、色々な要素がギュッと詰まった魅力的な一本でした!
最初から黒い羽と月の光のコントラストが演出されていて視覚的な表現が上手いなあと感じました。こむさんの書くものには抑圧的な環境からの解放が根底に見られるものもあるのですが、本作はまさに主人公が行動を起こす時に「走る」「跳ぶ」というアクションが強調されていて面白かったです。
捕らわれたお姫様を救う、という表現が似合う現代のおとぎ話だと感じました。ヒロインが笑顔になるって素敵だと思います。
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