第15話 1月
「無理無理無理無理、やだってば、マホ!」
「大丈夫だって友香、そんなに難しく考えなくたって。」
「痛っ、できないって、そんな…マホだって知ってるくせに…。」
「お願い!一回でいいから!アンタ、アタシの頼みが聞けないっていうの?」
私は今、友達のマホに人生初の壁ドンをされ、襟元をつかまれて脅迫されている。
「ミカリンの方が上手いって。経験者だし。ミカリン、助けてよー。」
「ごめん、友香、その日私、法事があるの。」
「私だって、スイーツを食べに行く約束が…」
「アンタ、親友のピンチとスイーツと、どっちが大事なの!この前、英語の訳を忘れてピンチだったアンタを助けたのはアタシでしょ!体育のバスケで、何回もスリーポイントシュート決めてたじゃん。バスケ部、今人数ギリギリで、私、大ピンチなんですけどっ!」
「わかったよぅ。助っ人やるよぅ。だから壁ドンから解放して~」
女子バスケ部は、三年生が引退してから、部員は八人しかいない。バスケなら五人いればいいじゃないかと思うかもしれないが、一試合、五人では済まないらしい。
まぁ、あと三人いれば大丈夫だろうけど、無理して怪我したまま試合を続けるのもしんどいし、時期的に誰かが風邪でも引いたら、本当にギリギリだ。
私が素早く動くのを苦手にしていることは、マホもよく知っている。
体育のバスケで、私がゴール付近で待っていて、マホからパスをもらい、シュートを決めるという姑息な方法で、体育実技『4』をもぎ取ったのはマホのおかげだ。
他にもいろいろと恩がある。
大きな大会じゃない、練習試合だし、弓道部の新部長の結弦先輩もあっさり許可してくれたので、協力することになった。
私には、ベンチに座って、まだ戦力に余力があると見せかけ、本当にどうしようもないときだけ、試合に短時間でいいからでるというミッションが与えられた。
付け焼刃で二日間だけ練習にも参加したのだが――。
「ねぇ、マホ、なんでバスケ部女子の髪型ってみんな同じショートヘアなの?」
「は?敵をかく乱するために決まってるでしょう。偶然同じになったと思ってるわけ?こんなのどこでもやってるわよ。」
本当かな?かなり姑息な感じがするけど、確かに動き回っていると紛らわしい。
最低限のチームプレーを説明してもらって、少しだけ一緒に練習した。
「友香、はりきって捻挫でもされたら困るから、後は一人でゆっくりドリブルシュートの練習でもしてて。」
「うん、了解。」
マホ達レギュラーの練習は、本当に真剣だった。
体育館を次に使うバレー部の、『早くどけよ』オーラを無視して、ギリギリまで集中していた。
私はそれを見て決心した。
友達のためにできることを今しないでいつやるのか!今でしょ!
試合当日。
「友香!マイフレンド!なんなのアンタ、ブラボー!素晴らしいわ!」
「友香、髪、切ったの!」
「マジで!うちらだってマホに脅されて切ってんのに。」
私はセミロングで、ポニーテールにしていた髪をバッサリ切り、マホ達と同じショートヘアの髪型にしていた。
動きはとろいけど、心は今日だけバスケ部員だ。
それよりも心配なことがある。
「マホ、相手校に私の知ってる人が一人いるよ。私ってバレたら、とろいのがわかっちゃうよ。」
「しょうがないわね。なるべく隅にいて、タオルでも被って下を見ときな。吉田先輩、マスクの予備持ってたら、友香に下さい。」
私は、マスクをしてスポーツタオルを頭から被り、少年スポーツ漫画の最終兵器かという雰囲気で試合を応援していた。
心で願うことは一つ。出番がきませんように。
あっ、もう一つあった。勝てますように。マホの怒りが怖い。
試合は、S校がリードしていた。
選手の動きと、ボールの動きが速くて、見ていて目が疲れる。
このまま無事、勝ちで終わるかという残り十分でマホがファールで転ばされた。
「マホ!あの、吉田先輩、なかなか立ち上がらないけど、マホ大丈夫ですか?」
「疲れたから休憩しているんだと思うけど…。あっ、本当にダメっぽいわ。」
もう、控えの選手はいない…。吉田先輩だって、胃腸風が治ったばかりで、まだ顔色が今一つなのに前半で頑張ってたし、インフルエンザで一人休んでいる。
「一色さん、後、十分だから、いける?」
「はい、頑張ります!」
私は、『ようやく出番が来たか』と、ラスボスのような雰囲気が出るようにゆっくりとコートにはいった。
そして、みんなの周りをうろちょろした後、ゴール付近でパスを待ち、シュートを一本だけ決めた。
あまり役にはたたなかったが、試合は何とか七点差で勝つことができ、本当にほっとした。
金城君、今月のスイーツの約束をキャンセルしたのは、こういう理由です。
髪の毛切ったら何グラム減ったのか。56㎏。
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