第2話 10月

 一期一会いちごいちえ――。

 このから揚げとの出会いは初めてであり、今まで出会ってきたすべてのから揚げとは違う。そして食べてしまえば二度と会うことはない。

 そう思うとこのから揚げが私の前にあり、これから食べるという運命が特別なものに思える。美味い。


 お菓子を禁止し、食事をしみじみと感謝して食べ、体重計に乗りまくった結果、わりとあっさり夏休み前の68㎏に戻ることができた。

 ここらでもう一つ、食事内容を工夫したいと考えていた時、タイムリーにも中一の弟、優斗が学校で倒れた。どうも貧血らしい。

 病院で検査したら、やはり貧血という結果が出て、鉄分の薬が出た。命にかかわる病気ではないので、不謹慎だが私は心の中で、『ナイスぅ~』と叫んだ。


「お母さん、当分ご飯のおかずは優斗の貧血回復のためになるようなメニューにしようよ。」


「そうね。でも、そうなると友香の好きなから揚げとかじゃなくなるけど、いいのね。助かるわ。」


「あたりまえでしょう。から揚げより、弟の方が大事に決まってるじゃないの。」


 優斗は今まで私に散々『同じ学校にデブな姉がいるのが恥ずかしい』と悪態をついていたのだが、


「姉ちゃんごめん、ありがとう。」


 と目を潤ませていってくるのがかわいかった。ちょろい。


 レバーだ、青魚だ、ホウレンソウだと箸の進まないおかずによって、私の食生活は大幅に改善された。

 記録レコーディングダイエットも続け、お菓子が食べたくなるとため息をついて冷蔵庫を開け、ミニトマトやヨーグルトでしのいだ。

 ポテチ食べたいよう。

 登下校にもテレビで見たウォーキングをとりいれ、速足で歩くようにした。

 本当にゆっくりと私のダイエットは進んでいる。


     まだまだ68㎏。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る