第8話 6月

 61㎏から、体重はびくともしない。

 摂取カロリーと、消費カロリーがイコールになっている感じだ。どうしたもんか。


「一色、部活中に何ため息ついてるんだ。」


「あっいえ、なかなか的中(矢が的に当たること)しないので…。」


「まだ的前に立ったばかりだろう?じっくり丁寧に引けば、そのうち当たるよ。」


 弓道って、簡単に見えるけど、なかなか的に当たらないのよね。これが。

 看的(的に当たってるかどうか見て、終わった後に矢を抜くこと)のあと、乾いた雑巾で矢じりを拭きながら、水川先輩に尋ねた。


「それはそうと、水川先輩と桃華先輩、なんだか元気ないですけど夫婦喧嘩ですか?」


「なっ、何言ってんだ、一色。」


「みんな知ってますよ、付き合ってるの。」


「そーかーちょっとなー。」


 部活中だったのでその時はそこまでにして、帰りに駅までの道々、私は水川先輩を尋問した。


「私、彼氏はいませんけど、うちの両親、S校のOB、OGで、高校で出会ってるんです。なにかアドバイス、聞いてきましょうか?」


 何を困っているのか、言ってもらわないと困るけど。桃華先輩のことが心配だ。


「うーん、あいつは学校とかでイチャイチャするの、嫌がるんだ。それはオレいいんだけど、もう一つ、距離を詰めたくって休みに誘いまくってたら、疲れるって…。どうしたらいいかなぁ。」


「わかりました。聞いてきますよ。大丈夫です。大舟に乗った気でいてください。」




 夕食は、麻婆天津飯だった。

 天津飯に餡ではなく麻婆豆腐をかけたもので、お父さんの大好物だ。


「ねぇ、お父さんとお母さんって高校時代、どうやって付き合ってた?」


「えーどうだったかしら。あっ、夏の花火大会に友達グループで行って、帰りに送ってもらったとき、ドキドキしたわね。あれから気になりだして、付き合いだしたっけ。」


 それ、夜道が暗くてドキドキしたんじゃないの。

 それに先輩たちはもう付き合ってるんですけど。


「デートなら遊園地の観覧車は外せないな。ねぇお母さん。」


「やだわ、お父さんったら♡」


 何それ…。このアドバイス、使える?




 無い知恵を絞り、翌日、私は水川先輩のクラスに行って、計画を告げた。


「先輩、花火大会と、遊園地の観覧車です。」


「は?何それ?」


「とにかく、弓道部みんなで、来月花火大会に行こうって誘いますから、先輩はその帰りに、桃華先輩を家に送ってください。遊園地の方は自分で考えてください。花火大会までは、なるべく普段通りに、というか桃華先輩を誘い過ぎないようにしていてくださいね。」


「そうか、スマン、とにかくありがとうな。」


     内ももがれないと歩きやすいことに感激した。61㎏。


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