第14話 金城視点 12月
「お願いします!」
「つぎはボクとお願いします!」
「時間があったらでいいです、ボクとも!」
「ずるいぞ、お前、横入りするなよ。」
「ボクはこの前、次は必ずって約束したんだ!」
ここが舞踏会で、僕が貴族の令嬢だったらうれしくて舞い上がるだろう。
しかし、ここは市民体育館で、申し込まれているのは卓球の練習だ。
市民卓球大会の後、高校生がすべて後片付けするのを条件に、一時間ほど中学生と高校生が自由に練習できることになった。
卓球は自分より強い相手とやった方が、上手くなっていくし、楽しい。
僕は、今日は部長にやられて高校生の部、個人二位だったが、中学から知っているやつもいるし、カットマンは珍しくはないけど、そんなにいないしで声を掛けられまくっているが…。
「ごめん、今日はちょっと借りがあるやつがいるから…」
と断って、後ろの方でこっちをちらちら見ている、一色さんの弟、優斗君に声を掛けた。
「優斗君、この前はカレー、ごちそう様。お礼に練習相手になるよ。」
「本当ですか!うれしい、やったー!」
先月、一色さんの家の前で、
しかし、大事なことを忘れていたことに気づいた。
僕とスイーツを食べに行くくらいだから、一色さんに彼氏はいないと思っていた。青木は『中学の時はいなかった』といっていたが、ちゃんと確認したほうがいい。もしかしたら、好きな人がいるかもしれない。
できれば、どういうタイプの男が好きか聞きたい。
少しくらいなら、寄せるのもやぶさかではない。
優斗君、協力してもらうよ。ふふ。
「今日は一色さんは?応援とか来ないの?」
「姉ちゃん?インフルエンザで寝込んでましたけど、復活したっぽいです。」
「えっ。大丈夫かな。」
おとといのスイーツの約束がキャンセルされたのは、インフルエンザだったのか。
体調がよくないって言ってたけど。心配だ。
「でも、もう大丈夫だと思いますよ。今朝、卵がゆ、バクバク食べてましたから。そうだ、金城さんに、『試合、頑張って』って言ってました。」
もう、ラインしてよ。
そして大切なことは忘れず伝えろよ、優斗君。試合、もう終わってるよ。
「ところで、一色さんってさ、彼氏いる?」
「いないと思いますよ。」
「どんな男がタイプか、知ってる?」
「さぁ、ドラマに出てくるイケメンは、みんな好きそうですけど、なんでそんなこと聞くんすか?」
カットマン同士のラリーは長い。
しかも、優斗君はそこそこ強く、粘り強くカットしてくる。
短い休憩に、たったこれだけのことしか聞き出せなかった。
いつの間にかにじり寄ってきた他の中学生が、『なんであいつだけ相手してもらってるんだ』『ずるい、オレも相手して欲しい』『金城さんのカットって、異国の舞みたいで、美しいよな。』と、またも舞踏会モードになってきたが、部長が『もう片付けるぞ』と助けに来てくれた。
ごめんよ、今日断った人達。
今度試合する機会があったら、瞬殺してあげるからゆるして。
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