第13話 11月

「暗くなったから、家まで送るよ。」


 私の人生で、男子にこんなこと言ってもらえる日が来ようとは!

 誰に言ったらいいんだろう。この『ありがとう!』という、感謝の言葉を。

 ああ、金城君にか。


 今日行ったクレープ屋さんは、私の家の近くで、金城君の高校も近い。

 私が浮かれて、さっき食べたクレープの話や、友達のことをペラペラしゃべり、

 金城君はずっと黙ったまま家まで歩いた。


「金城君、ありがとう、家、ここだから。」


「あの、一色さん、僕……。」


 気のせいか金城君は私の手を取ろうとして、ためらうように空中で手を止めた。

 何だろう、クレープのときも口数が少なめだったし、もうこれ以上私とスイーツ食べにいくのは止める…とか?



「姉ちゃん、家の前で何やってんの?」


「わぁ 優斗、お帰り!」


 優斗はうさんくさそうに金城君を見ると、急にぱあっと私が見たこともない笑顔になって金城君に飛びついた。


「西中のカットマンだった、金城さんですよね。オレ、金城さんに憧れて、カットマンになったんです。わー本人と話せるなんて。あっ、よかったら夕ご飯、食べていってください!」


「そんな、急には迷惑だから…。」


「今日はカレーって言ってたから、一人や二人、増えても大丈夫ですよ!」


 優斗は、やつの急変ぶりに唖然とした私を残し、金城君を家にひきずっていった。



「それで、金城君、御家族は?」


「僕、一人っ子なので、両親と三人家族です。」


「なにっ 一人っ子!」


「あら、お父さんだって一人っ子じゃないの。」


「このカレー、おいしいですね。おかわりしてもいいですか?あっ自分でよそいますから。」


「まあ、おいしいだなんて、うれしいわ。ルーの箱に書いてある通りに作っただけよ。」


 お母さんの料理の七割くらいは、箱に書いてある通りの料理だ。料理の腕は大したことないが、この姑息(でもないか)な方法でずっとしのいできている。


「それで、金城君、高校卒業後の予定は?」


「理系が向いてそうなので、工学部はどうかと思っているんです。」


「しっかりしてるわねぇ。」


「ちょっと、オレだって金城さんと話したいんだけど!あの、金城さんはどこのスポーツ店に行っていますか?ラバーが…今ラケット取ってきます!」


 目の前に繰り広げられるホームドラマを、弓道で身につけた平常心で見守り、私はカレーをもりもり食べた。


     私、金城君のことが好きだと確信しました。58㎏。

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