第16話 2月

 友香サイド


 しんしんと雪が降り、矢道は白く染まり、その向こうの安土あづち(的をセットしておく土手状の土部分)の黒色を際立たせていく。

 無心に弓を引く、その姿は清廉で美しい――。

 でも、実際やってる人は、鼻水が垂れるほど寒い。

 屋根はあるけど、外と同じ気温だもの。


 さっき、無心って言ったけど、私は心の中で賭けをしていた。

 本当は弓を引きながら何か考えてはいけない。

 でも、平家物語にでてくる那須与一なすのよいちは、めっちゃ祈りまくっていたし。


 私はこの矢が当たったら金城君に告白する。


 会(狙いを定めて)を十分永く、一瞬後、矢を離す……。

 タン!と的を射抜く音が響く。

 こういう時は当たるんだよ。しかもど真ん中。なかなかないよ。

 よし、武士に二言はない。武士じゃなくて、弓道部員だけど。

 体重も55㎏になった。

 彼に告白しよう。


『スイーツだけじゃなくて、遊園地で観覧車に乗りませんか。そして、もしよければ、花火大会にも一緒に行ってください。』って。


 でも、さすがにバレンタインデーとかには無理。その前後あたりの日にちにしよう。

 ダメだったときは、やけ食いしてリバウンドしないように弓道で鍛えた精神力で乗り切れ…るかな。



 金城サイド


 告白するタイミングどころか、相変わらず短めのラインすら、たまにしかやり取りできなくてモヤモヤしていた時、珍しく、彼女の方からラインがきた。


『二月の十三日か、十五日に会えませんか』


 ……なんで二月十四日じゃないんだろう。

 誕生日…とか。いや、彼女の誕生日は四月のはずだし、僕の誕生日は六月だ。

 まさか、他のほんめいがいるのか。

 今度こそ告白しようという、気持ちが揺れた。


 よし、一つ賭けをしよう。


『十三日と十五日は都合が悪いから、二月十四日に会えない?』


 OKだったら告白する。NOだったら――。


『十四日で了解です。楽しみにしてるね。』


 ハートマークつけてくれたらいいのに。いや、もう何も言うまい。


 告白しよう。セリフはもう決まっている。


『君のことが好きです。彼女になってください。』

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