第4話 3人目 筒井サンジ ニート 異世界の夢が破れる

筒井サンジは最初はがっかりしたが、逆転するパターンを期待していた。転生してもスライムだったり、盾だったりはずれから頂点を目指すパターンだ。

異世界の住人の基本は主人公よりも決定的に劣るなにかがあることだ。だからわざわざ異世界から主人公を召喚する。ここの住民も「多様性」が必要だと言っていた。それがなにかはよくわからないが、自分がそれを提供すれば一気に逆転して世界の王になることだってあり得る。


バカげた妄想だと思うが、そもそも異世界に転生した時点が世界線が狂っているのだからなんでもありだ。


だが、日を追う毎にサンジは自分に自信がなくなってきた。


「筒井さん、あなたはことあるごとに私たちに協力を申し出ますが、それは不要です。あたなたはただそのまま生きているだけで私たちの役にたっているのです。あなたたちのような存在は私たちにはとても貴重です」

「多様性の維持に役立つから?」

「その通りです。たとえば私の世界には自殺する者はおりませんし、レイプする者もおりません。そういう発想自体がないのです。とても新鮮です」

「そんなのない方がいいと思うけど。世界に迫る危機とかあるんじゃないの?」

「ありません。むしろあなたがたの世界の方が不安定で脆弱です。いつ崩壊してもおかしくありません」

「ああ、そうなんだ」


とにかく毎日がヒマでしょうがない。1日に数回、用事もないのにコンビニに行ってぶらぶらして帰ってくる。それからテレビを観る。正直、お笑い芸人をAIで模した連中が登場するニュースは気分が悪くなるので止めてほしいが、他に観るものがないのと、他の連中がどうしているか知ることのできる大事な情報源だ。


女の子が自殺していた。なにが理由かはわからないが、精神的に不安定だったらしい。そこにお笑い芸人が突っ込みを入れる。最低でゲスで吐き気がする。


サンジの考えていた異世界とは全然違う。魔法も騎士もない。姫もいない。異世界人とは会話できるけど、意味が通じているとは思えない。科学力ははるかに異世界人の方が上だ。なんのために自分はここにいるのだ。はっきり言って話のできる相手がいない分、日本にいた時より悪くなっている。


「なんで僕はここにいるんですか?」

サンジは繰り返し異世界人に質問するようになっていった。

「多様性の維持のためです。あなたはそこで生きているだけで私たちの役に立っています」

全く感謝されている感じがしないし、しょせんは自分たちは下等生物なのだと思い知らされる。


そのうち口をきくのも面倒になり、1日中ベッドで寝ているようになった。異世界人たちとも寝たまま話をする。正直、会話はおっくうだ。心が重く、なにもしたくない。胸が締め付けられるような感じでずっと苦しい。楽になりたい。帰りたいとしか思わない。


やがて食欲もなくなり、動けなくなった。

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