選ばれて異世界に転生した100人が全員自殺した話
一田和樹
第1話 多様性の維持のため選ばれた日本人100名
高度な知能を持つ生命体に満ちた異世界シセイから最下層の知的生命体である地球人に提案があった。
「多様性を維持するために、100名の転生者を引き受けたい」
逆らえば世界ごと消し去られてしまう。急遽作られた超国家組織シセイ委員会はこれを受諾し、各国から
転生者を募ることにした。真っ先に手をあげたのは日本の首相だ。
「生産性のない老人や無職者を100人提供します!」
各国首脳はあきれたが、日本だけで引き受けてくれるなら助かると内心喜んだ。日本には100兆円の補償金がひそかに支払われたが、国民や転生者家族に支払われることはなかった。
日本政府は、「選ばれし転生者」と転生者はこの世界の代表と持ち上げたが、実際に選ばれたのは生産性のない者ばかりだった。
転生した彼らを待ち受けていたのは、高度な知能と文明に完膚なきまで打ちのめされる日々だった。
日本の新聞は転生者を讃え、政府予算で『選ばれて転生して大統領になったオレ』、『ニートのオレが選ばれて転生して無双した話』といったラノベが大量に出版され、ベストセラーになった。もちろん全部でたらめであるが、転生に憧れる愚か者が増えたことは政府の目論見通りだった。こうやって愚昧な国民の転生に対する心理的抵抗をなくしておけば、二度目、三度目の要請があったらまた100人送り込んで100兆円もらえる。どうせ転生した先のことなどわかりゃしないのだ。
転生者100人は見た目は東京とほぼ同じ街に収容された。生活環境は全く同じといってよい。水道、電気、ガス、コンビニやファストフードまである。しかも全部タダ。ただし、そこにいるのは美少女全部ロボットだ。(転生者は自分たちの街をニセトと呼ぶようになった。ニセトーキョーの略だ。
転生者の年齢、職業、性別はバラバラ。共通しているのは「役立たず」で「社会不適合者」ということくらい。
「みなさんが慣れるまで、できるだけ快適に過ごしていただく」ためにそうしたのだという。100人の転生者に2人のメンターがついた。転生者にこの世界のことを教え、必要に応じてニセトの外に連れ出し、じょじょに異世界に慣れてもらうのだ。
だが、この時点ですでに数名の自殺者が出てしまった。異世界の住民のせいではない。いや、転生者の感覚から判断すると、異世界の住民のせいになるかもしれないが、彼らに悪意は全くなかった。
ただ、転生者に質問されるまま、本当のことを素直に話してしまったからだ。
日本政府が自ら100人全部を引き受けると名乗り出たこと、生産性のない者を選んだこと、100兆円受けとったが政府関係者が着服したこと。そういうことを話した。
決定的だったのは、「わからないことはなんでも訊いていただいて結構ですが、答えを理解できなかったらそれはあなたの知能が低いためです。地球人はこの宇宙の知的生命体の中では最下位に近いことを自覚しておいてください」といった身も蓋もない言い方だったようだ。
ちなみにシセイの世界では自殺という概念はないので、彼らはさっそく現れた多様性を研究し始めた。
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