第5話 4人目 田中三郎 無職老人 拷問の果ての自殺
転生してしばらくすると、田中三郎は自分のすべきことがわかった。自警団だ。
他の高齢者に誘われるまま参加し、パトロールをしているうちにだんだん自覚が生まれてきた。異世界人たちは転生者にはできるだけ干渉しないようにしている。衣食住に加えて完全な医療体制で、なにが起きても助けてくれる、自殺を除いて。
異世界人が犯罪行為にも干渉しないから徒党を組んで好き勝手するバカな若い連中が出てきた。なんの不自由もないのに鬱屈し、暴れたがっている。日が暮れる頃になると、ぞろぞろと10人以上で街やマンションの中を歩き回り、獲物を見つけるとからかったり、暴行したりする。
せっかく天国のような場所に来たというのに、なぜあんなことをするのか信じられない。三郎は自ら夜の見回りを買って出て、数人の仲間と一緒に巡回していた。異世界人のおかげで持病だった腰痛も痛風も治って、体調はよい。
念のため各人が警棒を持ち、ヘルメットをかぶった。異世界人は銃器やスタンガンのようなものは与えてくれなかったが、警棒やナイフは言えばくれたのだ。当然、バカな若い連中も同じ物を持っている。
何度か若い連中とぶつかり、たたきのめされた。人数はあちらの方が多いし、若くて強い。勝てる道理がない。それでも三郎たちが戦っているおかげで被害者は減る。たいていケンカが起きるのは暴行を見つけた時で、暴行を受けている相手は三郎たちが闘っている間に逃げることができる。
ある日、いつものように三郎たちは若い連中と戦い、たたきのめされた。ふつうなら死んでもおかしくない大怪我だ。その日は少し様子が違っていた。連中は三郎たちを自分たちの部屋に引きずって行き、縛り上げた。
「この世界だと自殺以外じゃ死なないだろ。死ぬ気になるまで拷問してやるよ」
それからの毎日は地獄だった。異世界人が三郎たちを元に回復させるとすぐに滅多打ちにしたり、爪を剥いだり、身体中に貼りを指したり、身体に油を塗って火をつけたり、さまざまな方法で痛みと苦しみを与え続けた。あまりの苦痛に三郎は何度も「助けてください」と叫んだが、若者たちは笑い、異世界人たちは無表情だった。
「死ぬたくなったか? 自殺しねえとずっとこのままだぞ」
毎朝、若い連中は三郎に訊ねる。そのたびに三郎は首を横に振っていた。
拷問されると頭が朦朧とし、死にたい気持ちがあふれてくる。しかし異世界人の手当を受けると、意識ははっきりし死にたい気持ちもほとんどなくなる。その繰り返した。
やがて三郎は言葉を話せなくなった。なにか話そうと口を開いても、言葉は出ないでただ嗚咽が漏れ、涙がこぼれる。それを見て若い連中は笑いながら暴行を繰り返す。
ある日、気がつくと窓辺に立っていた。縛られていない。助かった? と思った時、思い出した。
さっき久しぶりに言葉を口にしたのだ。
「死なせてください」と
振り向くと若い連中がにやにやしてこちらを見ている。
三郎は自分はなぜ転生したのだろうと思いながら前に進んだ。
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