はじめてのキス

 いつも学校帰りに寄るコンビニがある。

 学校から駅までの道のりの途中にあって、よく電車の待ち時間潰しに利用していた。

 今日もまた、学校帰りに寄る。

 でも最近は買い食いが多くなっている。

 コンビニで最近発売されたばかりの新商品・『焼きスイートポテト』にハマっているからだ。

 棚に行くと…空だった。

 …いきなり売れたのか?

 にしても、新商品は他の商品よりもたくさん置いてあるハズだった気が…。

「あっあのっ…!」

 間近で声がした。

 もしかして邪魔になっていただろうか?

「あっ、すみません」

 避けようとして、気付いた。

 声をかけてきたのは他校の男子生徒。

 彼はココのコンビニの袋を持っていた。

 その中には…オレが食べたかった『焼きスイートポテト』がいっぱい…。

「ちょっと話しがあるんだけど…。きっ聞いてくれたら、コレ全部あげるから!」

 そう言って彼は真っ赤な顔で、袋を差し出してきた。

「…はあ」

 とりあえず、敵意は無さそうだ。

 彼に付いて行くと、コンビニのすぐ裏にある公園に来た。

 人気はあまりない。

 彼は振り返るなり、夕闇でも分かるぐらい真っ赤な顔で言った。

「すっ好きです! 付き合ってください!」

「………はい?」

 …何かの冗談?

 思わず周囲をキョロキョロ見回す。

 仲間らしき者達はいない。

「あの…オレ、男なんですけど」

「わっ分かってる! けど、キミが良いんだ! あのコンビニで見かけた時から気になってて…!」

 …あそこのコンビニは駅近くにあるせいか、学生が良く利用する。

 その中の一人なんだろうが…何て言えばいいんだろう?

「えーっとですね…」

 でもとりあえずは何か言わないと、間が持たない。

「あっ、そうだ!」

 …人の話を聞かない人だ。

「コレっ!」

 ズイッと袋を差し出してくれた。

「俺の話、聞いてくれたから…」

 ……返事はいいのか?

「はあ、どうも」

 とりあえず、受け取る。

「…良かったら、一緒に食べませんか?」

「えっ! 良いの?」

「はい。一人じゃこんなに食べられませんし」

 袋はズッシリ重い。

 たくさん入っているからだ。

 公園のベンチに二人で腰をかける。

 袋から一つ取り出し、彼に差し出す。

「はい、どうぞ」

「あっありがと」

 …って言っても、彼が買ってくれたものだが。

 二人で黙々と食べる。

 けれどノドが渇いた。

 さっきのコンビニで買ったお茶を開けて、飲む。

 そして彼に差し出す。

「あっ、良かったら」

「えっ!? でっでも…」

 あっ、口を付けた後はまずかったか。

「間接キスになるんじゃ…」

 …違ったか。

「いらないんでしたら、片付けますけど?」

「あっ、いる! 飲みます!」

 そう言ってペットボトルを持って、恐る恐るといった感じで一口飲む。

「ありがとう…」

「どういたしまして」

 オレはふと、袋を見た。

 棚にあるだけ買ってきたみたいだけど、オレがコレにハマっていること、知っていた…んだろうな。

 オレは今、好きな人も付き合っている人もいない。

 言わばフリーだけど…。

 改めて彼を見る。

 良く見れば、彼の着ている制服はここら辺では有名な高校のだ。

 …頭が良すぎると、どこかおかしくなるんだろうか?

「ねっねぇ」

「はい?」

「こっ恋人がいきなりダメなら、とっ友達からってのはどうかな?」

 おっ、向こうから妥協してきた。

「まあ友達なら…」

「ホント? じっじゃあケータイナンバーとメール教えて! 今、俺の出すから」

 声は弾んでいるのに、表情は複雑そうだ。

 …まあオレと何としても繋がりが欲しいと思うのなら、妥協してしまうだろう。

 いきなり恋人は…ハードル高い、のか?

 思わず首を傾げてしまう。

「あっ、アレ? どこに入れたかな」

 彼はカバンの中身を探っている。

 けれど、気付いてしまった。

 手が震えている。

 とても強く。

 考えてみれば、今日はじめて会話をした。

 そしてすぐに、告白。

 言われた方はただ唖然とするだけだが、言う方はかなりの勇気が必要だっただろう。

 そんな彼を見ていると…何となく、胸の辺りが熱くなる。

「ごっゴメン! ケータイ、学校に忘れてきたかも。悪いけど、このメモに書いて…」

 そう言ってこちらを向いた彼に、オレは―キスをした。

 ベンチに手を付いて、身を乗り出すようにして、彼の唇に触れる。

 ―『焼きスイートポテト』の味がする。

 思わず笑みがこぼれる。

「…えっ? ええっ!」

 彼はまた真っ赤になった。

 慌てている間に、オレは彼の手からメモ帳とペンを奪って、ケータイのナンバーとメールアドレスを書き込んだ。

「はい」

「あっありがとう…」

「早速で悪いんですけど、空いている日を教えてくれませんか?」

「あっ空いてる日?」

「ええ。一緒にいましょう」

「…それって」

 オレはニッコリ微笑んで見せた。

「はい。あなたのことを知りたくなりました」

 この気持ちが恋かはまだ分からない。

 けれどこの人のオレを好きだという感情は、一緒にいてとても心地よく思えてしまう。

「これから、よろしくお願いします」

「うん…うん!」

 彼は笑顔になると、いきなり抱きついてきた。

 だけどやっぱり、心地よかった。


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