先輩とのキス

 オレには好きな人がいる。


 でもその人は高校三年生で、オレは高校一年生。


 しかも部の先輩、後輩。


 …あげくの果てには、男同士。


 絶対、ムリっ!


 だって先輩、大学生になったら彼女欲しいとか言ってたし!


 ……オレのこと、いつも





「可愛い後輩」





 としか言わないし。


 絶望的だ…。


 でも…告白しない方向はナシで。


 先輩と会うたびに、気持ちが爆発しそうになる。


 だから終わりにするんだ…。


「何だいきなり呼び出して」


 放課後、部活が休みの時に、先輩を部室に呼び出した。


「あの…言いたいことがあって」


「うん? 何だ、相談か?」


 先輩は何も知らず、ニコニコしている。


 …ちょっと罪悪感を感じる。


「あの、先輩ってオレのこと、どう思います?」


「可愛い後輩だ」


 ……何だろう? 今、イラっときた。


「一年生の中でも、俺に一番に懐いているしな。顔も性格も可愛いしな」





 ブチッ★





「…も、良いです」


「そっか? そんで、何の話なんだ?」


 この人には言葉よりも、行動で伝えた方が良いみたいだ。


「ちょっと屈んでもらって良いですか?」


「こうか?」


 ムカツクことに、先輩の方がオレより頭一つ分身長が高い。


 なので顔の位置がちょうど良くなったところで、オレは先輩の頭をガシッと掴んだ。


 そして―キスをした。


 唇をただぶつけるようなキスを。


「っ!」


 そしてすぐに離れる。


「―オレの言いたいことは、コレだけです」


 そう言って部室から飛び出した。


「おっおいっ!」


 そのまま廊下を走り出す。


「待てって!」


 でも10メートルしか進んでいない所で、先輩に捕まってしまった。


 後ろから抱き締められ、先輩の匂いや体温を感じてしまって…オレは逃げられなかった。


「…すみません」


「何で…謝るんだ?」


「先輩、彼女欲しいって言ってたのに…キス、してしまったから…」


「そんなのダチとの会話の社交辞令みたいなモンだ。…本当に欲しいなんて、思っちゃいない」


 オレを抱き締める先輩の腕に、力がこもる。


「…それで、俺に言いたいことって?」


「えっ?」


「ハッキリ言ってくんなきゃ、分からないだろ? 特に俺は鈍いから…」


 鈍い…。


 確かに先輩は鈍い。


 だからはっきり言わなきゃ…。


「…きです。好きです、先輩」


 精一杯声を振り絞った。


「…こっち向け」


 言われて、オレは顔だけ振り向いた。


 先輩は真っ赤な顔で、キスしてきた。


「んっ…」


「やっぱり可愛いよ。お前は」


「…それって褒め言葉ですか?」


「もちろん。俺はお前しか可愛いと思わないから」


 …なるほど。


 それはつまり―愛の言葉か。



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