告白のキス
「なぁ、友情と恋愛の境界ってどこだと思う?」
そんなことを聞いてきたのは、同じ高校に通い、同じ2年B組に在籍する麻生
あそう
奏
かなで
という男だ。
俺の部屋で勉強会をしていた最中の突然の発言、数学の勉強をしながら何でそういうことを言い出すんだか。
「…さあな。俺はお前ほど経験を積んでいないから分からない」
「ツレナイな~。少しは考えてくれよ」
「断る」
本気で相談していないことは、ヤツのニヤけた顔から分かる。
「何だ? 今度の相手は友達から恋人になりたいと言ってきたのか?」
コイツはしょっちゅう付き合う相手を代える。『来るもの拒まず、去るもの追わず』という言葉の意味を体現しているようなものだ。
しかしそこそこ良い顔と体、そして性格をしている為、言い寄ってくるものは数多く、相手に不足したことはないだろう。
「ん~ちょっと違うかな? オレが思っているんだ」
「今まで友達だと思っていた人を、本気で愛するようになったのか?」
「はっきり言うねぇ。でも、そうかも」
そう言う顔は笑っているけれど、目が本気だ。つまり真剣ということだろう。
なら、俺も真剣に考えて答えを言った方が良い。
「まあ…なんだ。友達ではしないようなことを、恋人としてはしたいと思ったら、そうなんじゃないか?」
「わあ。エッチな発言」
「どこがだっ!」
たっ確かにそういう部分も含んでいるが、何もはっきりと言わなくたって良いだろうに。
「でもそうかもな。いくらオレでも、誰彼構わずってワケじゃないし」
…それはどーだか。コイツが付き合ったことのある人数を思い浮かべただけで、その言葉が疑わしく感じる。
いっつもヘラヘラしてて、本心は隠したまま誰にも明かさない。そのクセ人の心の動きには敏感で、誰とでも上手くやれる。
…俺とは正反対のタイプだ。俺は何でも真面目に受け取って、取り組んでしまう。上手く器用に振る舞うことができないせいで、人付き合いが苦手だった。なのに今一番親しい仲の友達が、目の前にいるコイツとは……情けなすぎる。
「けどさ、言われた相手はどう思うだろうな?」
「友情から愛情に変わることは良くあることだと聞く。流石に最初は驚くだろうが、ちゃんと考えてくれるだろうよ」
特に相手がコイツならば、言われた方も悪い気はしないだろう。
「そっか。じゃあ言うわ」
「そうしろ。それでとっとと勉強に…」
「オレ、お前のことが好きだ」
「戻れ…って、へっ?」
言葉の合間に、何か変なことを聞いたような気がした。顔を上げて見ると、ヤツはニッコリ笑っている。
「聞こえなかった? 『オレ、お前のことが好きだ』って言ったんだけど」
「…ああ。まあ俺も別に嫌ってはいない」
人として問題はあるが、それで別に悪いヤツとは思っていなかった。
「そうじゃくって。友情じゃなく、恋愛感情の方で」
「………はい?」
「何かさ、いつの間にかお前のことばっか考えるようになってた。どこにいても、誰といても。コレって恋ってヤツじゃないかって思ってさ」
あんぐりと口を開く俺を見ながら、ヤツはいつものようにひょうひょうと語る。
「そんでもってお前が他の誰かを好きになって、付き合うことを想像したらすっげぇ腹が立った。お前の隣にいるのはオレだけだって、思うようになってたんだ」
真剣な眼差しを向けられ、思わず顔をそむけた。
「そっんな、いきなり言われても…!」
「オレはお前と友達じゃできないことしたいと思ってる。例えば抱き締めたり、キスしたり、それに……」
「わーっ! 言うなぁ!」
生々しいことをペラペラしゃべられると、こっちが赤面してしまう!
「お前はどう? オレとそういうこと、してみたいと思わないか?」
挑発するような視線を向けながら、俺の頬に触れてくる熱くて大きな手。…不覚にも、胸が高鳴ってしまう。
「おっ俺みたいな退屈な男と付き合っても、楽しくないと思うが?」
「んなことねーよ。だってずっと親友やってこれたんだ。そっから恋人になったって、変わらねーよ」
確かにコイツなら付き合っても退屈なんかしないだろうし、させないだろうが…。
考え込んでいると、アイツはクスッと笑った。
「お前、本当に真面目に考えてくれてるよな。顔に出てるぞ?」
「それはお前が本気で言っているように見えるから……。冗談なら、もうやめろ」
これ以上心を乱されたら、俺の方が参ってしまう。
「いや、大本気。だから真面目に考えてくれて嬉しいけどよ」
いきなり身を乗り出し、触れていた手を後頭部に回して引き寄せてきた。そうなると顔が近くなって…。
「んっ…!」
唇が、重なった。体温より少し冷たくも、肉厚な唇に触れて、一気に全身に熱が駆け巡った!
「なっ何するんだ! いきなり! まだ返事の途中だろうが!」
「頭で考えるのも良いが、体に聞いてみるってのもアリだろう?」
「それはお前だけだっ!」
殴ろうとする両手を掴まれても、バタバタともがく。けれどコイツの方が体格が良いので、抵抗の意味が皆無に近くても暴れる。
「んで、どうだった? キスしてイヤだったか?」
「それは……」
イヤでは…なかった。けれど素直に言うのはしゃくなので、顔をそむけて黙る。
「ははっ。答えが態度に出てるぞ?」
くっ…! コイツのこういうところ、嫌いだ。どんなに否定しようとしても、全てが見透かされてしまうんだから。
「オレは気持ち良かったぜ?」
「っ!?」
低く艶のある声が耳元で囁かれて、背筋にぞくっと痺れが走る。
「だからやっぱオレ、お前のことが好きだ。しかも今までにないぐらい、夢中になってる」
「…本当か? またすぐに別れを切り出すんじゃないのか?」
「しねーよ。それにお前の方から言われたって、簡単には手放さないからな」
「手放すって…物じゃあるまいし」
「オレはすでにお前の物だけどな」
むっ…。そう言われると、何も反論できない。
黙っている間に、アイツの腕の中に囚われてしまう。こんなに強く抱き締められたらもう…逃げようがない。
「……大切に、してくれるか?」
「もちろん。大事に大切にする」
「飽きたり、邪魔になったら、すぐに言ってくれ」
「そんなの絶対にありえねーから。信じろよ」
アイツの…奏の自信に満ち溢れた声が、俺の身も心も温かくしてくれる。
「真成
しんじょう
翔
つばさ
、オレの恋人になってくれるか?」
間近で問われ、口ごもりながらも俺は答えた。
「俺…まだちゃんと付き合った経験ないから、いろいろ迷惑かけると思うけど……。それでも良いなら」
「ああ、良いぜ。オレは経験豊富だからな。いろいろと教えてやるぜ」
…その言い方は激しくムカツクんだが。
「奏のそういうところは嫌いだ」
「じゃあもう言わない。ちなみに言っておくが、本気で好きになったのは翔、お前がはじめてだから」
やっぱり軽薄な男だ。でも拒絶できないのは…きっと心が惹かれているから。
この男に大事にしてもらいたい、愛されたいと気持ちが叫んでいる。それってつまり、俺もこの男のことを…。
「翔、愛しているぜ」
再び間近に迫ってくる顔を見つめながら、俺は小声で言う。
「奏…好きだ」
Boys Kissシリーズ hosimure @hosimure
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