眠りのキス

「ふわぁ~あ」

「おっきな欠伸だな」

「だって寝みーもん」

 大きな欠伸をして、オレはアイツに寄り掛かった。

 アイツの部屋で、二人でテレビゲームをしていたところだった。

「眠いなら、ベッドで寝ろ」

「ん~…」

 頷くも、オレはそのまままぶたを閉じる。

「…オイ」

 アイツの低い声が、心地良い。

 外は寒く、部屋の中があったかいっていうのも、眠気の原因だ。

 それに…アイツの部屋で、アイツの隣にいること。

 それがとっても安心する。

 アイツに寄り掛かり、寝息をたてる。

「…ったく。しょうがないな」

 オレより体格の良い幼馴染の男は、オレを抱き上げ、ベッドに下ろす。

 毛布をかけてくれて、頭や頬を撫でる。

 そして―唇にキスをする。

 もう一度頬を撫でて、アイツはオレに背を向ける。

 …全部気配で分かっていた。

 隣の家に住んでいるコイツとは、もう十八年もの付き合いだ。

 保育園から高校まで、ずっと一緒。

 一緒にいることが、空気のように当たり前に思っていた。

 それがいつの頃か…変化が起きた。

 気付いたのは一年前の夏だった。

 いつものようにコイツの部屋に遊びに来たオレは、部活帰りで疲れていた。

 だから冷房の効いたこの部屋に来た途端、気が抜けて、ベッドに倒れて寝てしまった。

 その間、アイツは飲み物を取りに行ってて、戻って来た時にはオレはベッドで眠っていた。

 でも…本当は寝ていたのは一時だけで、アイツが戻って来た時には意識があった。

 けれどふざけて眠ったフリをしていた。

 近付いてきたらいきなり起き出して、驚かせてやろうと思っていた。

 なのに…気配に気付いて目を開けた途端、アイツの顔が間近にあって…キス、された。

 突然のことで、オレは抵抗できなかった。

 そのまま寝たフリをし続けるしかなかった。

 そしてその後も…オレが眠ると、アイツは必ずキスをしてきた。

 オレはキスされることを分かっていて、あえて寝たフリをしている。

 もしかしたら…バレているのかもしれない。

 でも、起きてキスのことをオレが言い出したら、今の関係は…絶対に崩れる。

 良い方向に? …それとも、最悪な方に?

 分からないから、知らないフリを続ける。

 こんなこと、いつまでも続けちゃいけないと思うのに、もう一年以上続けてしまっている。

 ふと眼を開けると、アイツは黙ってオレに背を向け、座っていた。

 何考えてるんだろう?

 こんなに近くにいるのに、全然気持ちは伝わってこない。

 …ずっとこのままだったら、どうする?

 自然と終わるのか?

 終わらせられるのか?

 …何かだんだん考えるのが、めんどくさくなってきた。

 オレはがばっと起き上がった。

「…っ! どっどうした?」

「どうしたもこうしたもあるか! このバカ!」

 オレはアイツに抱きつき、キスをした。

「んっ…!」

「…いい加減、腹くくれよ」

 ぎゅうっと抱き締めると、同じ強さで抱き返してくれる。

「悪かった…。好きだ」

「…謝罪と告白、一緒にすんなよ」

「悪い」

 だけど嬉しい…!

 改めて、キスをする。

 きっとオレ達は、言葉よりも行動の方が、気持ちを伝えやすい。

 起きていれば、よりいっそう、な!



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